●「上野グレー」と呼ぶ不思議なカラー名の由来は、25年前のル・マン優勝マシン
ちょうど25年前、1995年6月のル・マン24時間耐久レースで総合優勝した「マクラーレンF1 GTR」。
同社にとっては初のル・マン制覇であり、同時に「モナコGP」「インディ500」そして「ル・マン24時間」と”世界三大レース”をすべて制したコンストラクターになった瞬間でした(現時点でそれはマクラーレンのほかメルセデスしか達成していない)。
先日、世界限定50台で登場した「750S ル・マンスペシャルエディション」は、同社にとって大きな出来事となったル・マンでの優勝から四半世紀が経ったのを記念して用意されたモデル。ボディカラーはマクラーレン・オレンジまたはサルテ・グレー。インテリアはオレンジ、もしくはグレーのコーディネートが選べます。
エクステリアにはルーフスクープ、優勝した59号車を踏襲したデザインの5本スポークLMホイール(LMとはル・マンの略)など、インテリアにはカーボンファイバー製レーシングシートなどが追加されていて、さながら気分はル・マン参戦車両ですね。
「McLaren 25th Anniversary Le Mans」のロゴをあしらった専用プレートが装着されるほか、なんともユニークな演出といえるのは車体番号が298で始まること。これはレースで優勝したF1 GTRが298周とライバルより1周多い周回数で完走したことにちなんでいるのだそうです。
ミッドシップで搭載されるエンジンは排気量4.0LのV8ツインターボで720ps。購入した幸せなオーナーは停止状態から100km/hまでの加速はわずか2.9秒、200km/hまで7.8秒、そして341km/hという最高速度を味わえます。
正直に個人的なことを言わせてもらえれば……控えめに表現して、かなり欲しい!
ところで気になるのが、フロントバンパー下部とボディサイド下部、そしてリアバンパーのカラー名称。メインカラーに「マクラーレン・オレンジ」選んでも、「サルテ・グレー」を選んだ場合でも、車体下部からリヤにかけてはグレーに塗られていて、そのカラー名が「ウエノ・グレー」なのです。……ウエノ!? もしかして「上野」のこと?
実はこのネーミング、本当に「上野グレー」なのです。ただ、地名というよりは医療機関名の「上野クリニック」に由来。
1995年のル・マン24時間耐久レースには合計7台のマクラーレンF1が出走しましたが、何を隠そう関谷正徳選手もドライバーのひとりとして優勝に導いた59号車のメインスポンサーは「上野クリニック」。「ウエノ・グレー」というボディカラーはそこへのリスペクトというわけです。
●数奇な運命をたどって優勝マシンとなった59号車
この優勝の背景には大きなストーリーがあります。なんと、当初は59号車がル・マンに出走する予定ではなかったというほどですから。
本来はマクラーレンの参戦計画として6台で決まっていたものの、その後にマクラーレンの大ファンであり上野クリニックを展開していた佐山元一氏がスポンサーとなって追加でもう1台を走らせることが急遽決まったのだとか。
59号車がいかに予定外であったかは、新車を制作できずにシャシーナンバー「01R」という走行可能だったプロトタイプを急遽レースカーに仕立てたことからもわかります。
チームは佐山氏が直接かかわる「国際開発レーシング」。車両オーナー(他チームのマシンは各チームの所有物だった)は「マクラーレン」で実質的なワークス体制であったものの、車両が完成したのは本番のわずか6週間前。レースはほぼ「ぶつけ本番」だったというから驚きです。
しかし、結果として59号車はトップでゴール。マクラーレンはル・マン24時間耐久レースに初参戦した年に、優勝を飾ることになったのです。マクラーレン側も盛大に喜ぶとともに、優勝のきっかけとなった上野クリニックに対しても強く感謝したといいます。
マクラーレンの特別仕様車の一部が「上野グレー」に塗られている理由。そこにはマクラーレンから上野クリニックへの謝意が込められているのでした。
(工藤貴宏)