F1のサスペンションとは?操縦安定性のためストロークを小さく硬く設定【自動車用語辞典:F1の技術編】

■高速やコーナリング走行でもタイヤの接地性を確保して車体姿勢を安定させるのが役割

●接地性向上のためにある程度ローリングさせ、空力のためにピッチングを抑えるのが理想

F1マシンのサスペンションは、市販車でも一般的に採用されているダブルウィッシュボーン方式です。ただし、高速走行やコーナリングの操縦安定性を重視し、サスペンションストロークを極端に小さくした硬いセッティングになっています。

F1マシンのサスペンションの機構と特徴について、解説していきます。

●F1用サスペンションの特徴

サスペンションの役割は、タイヤの接地性を確保して車体姿勢を安定させることです。

F1マシンでは、市販車のように乗り心地を配慮する必要がないので、駆動力を効率的に発揮できるようにサスペンションストロークを極端に小さくしています。

市販車のストロークが150~200mmに対して、F1マシンの駆動後輪は20~30mmです。

前輪は制動時のピッチングを極力抑えるために、さらに10~20mmまで縮小しています。サーキット走行専用なので、サスペンションストロークが小さくても許容できますが、わずかな凹凸でも前輪が跳ね上がる恐れがあります。

●ダブルウィッシュボーン方式が基本

サスペンションの形式には、ストラット方式、ダブルウィッシュボーン方式、マルチリンク方式などがありますが、F1マシンは独立懸架のダブルウィッシュボーン方式を採用しています。

独立懸架では、左右輪が影響せずに自由に作動するため、左右輪それぞれのタイヤの接地性が高められます。

ダブルウィッシュボーン方式は、アームの形が鳥の胸骨(ウィッシュボーン)に似ていることからネーミングされています。上側のアッパーアームと下側のロアアームの2本で構成されているため、前後剛性や横剛性にも強い特徴があります。

ジオメトリーの設定自由度が高く、スペース効率が高い点もF1マシンに向いています。

●ローリングは残してピッチングを抑えるサスペンション

高速でコーナリングするF1マシンでは、タイヤの接地性を確保するため、ある程度はローリングさせますが、ピッチングは可能な限り抑えることが理想です。

そのため多くのF1用サスペンションでは、サードダンパーが装着されています。サードダンパーには、ダンパーだけを使用する場合とダンパーとコイルを使用する場合があります。

一般的なサードダンパーは、左右輪のクランクをつなぐように配置されます。

・ローリングでは、左右どちらかの車輪が上がれば反対側の車輪は下がるため、位置は変わってもサードダンパーに大きな力はかかりません。

・ピッチングでは、左右輪が一緒に上下するのでサードダンパーは大きな力で伸縮します。

サスペンションの基本であるスプリングやダンパーを弱めに設定して、サードダンパーを強めに設定すれば、ローリングの際には柔らかい、ピッチングの際には硬いF1マシンに適したサスペンションになります。

サードダンパーによる車両制御
サードダンパーによる車両制御

●サスペンションの材質

サスペンションのアームやプッシュロッドは、軽量で頑強なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が使用されます。断面形状は円形ではなく、空気抵抗を考慮して楕円形状にし、内部は軽量化のために中空です。

リアサスペンションのアーム付近には、高温の排気ガスが通るので、アームの表面に耐熱塗料や耐熱フィルムを貼ります。


F1マシンのサスペンションとしては、コーナリング時にタイヤの接地性を向上するためにある程度ローリングさせ、空力的に不利になるピッチングは可能な限り抑えることが求められます。

それを実現するために、ローリング時には柔らかいサスペンションに、ピッチング時には硬いサスペンションになるように、サードダンパーを組み込んでいます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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