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日本二輪車普及安全協会(=二普協)が主催する「二輪車安全運転全国大会 2020」の開催中止が決まりました。原因はもちろん新型コロナウイルス感染拡大による余波。
しかし、全国を対象とした緊急事態宣言が緩和された前日である5月13日の中止決定は、バイク業界にある憶測を独り歩きさせています。
●低下する全国大会の求心力
二輪車安全運転全国大会は都道府県大会を勝ち上がった選手が8月に鈴鹿サーキット交通安全教育センターに集い、日本一を競う競技会です。
2020年大会の中止について、協会は「参加を見込める県は数県となり、全国大会としての開催ができない状況になりました」と、理由を語っています。
この中止については感染拡大防止で自治体からイベント自粛が呼びかけられる中の出来事だったのですが、この決定をきっかけにして浮上したのが「競技会継続の先行き不安」です。
地方大会の運営に関わったことのある業界関係者は、こう話します。
「オリンピック・パラリンピックが延期になるほどですから、2020年の大会が中止になることは仕方のないことです。ただ、問題はその先、二輪車安全運転全国大会は来年、開催できるのでしょうか」
心配の背景にはあるのは、全国大会の求心力低下です。
「この全国大会は2017年、50回を区切りにいったん廃止になりました。二普協はこれを引き継ぎ2019年に復活させました。ところが、復活の初年の参加は34都道府県しかありませんでした」
例年、大会は1500人にのぼる大イベントでしたが、19年大会は約半分の600人に留まりました。その開催結果報告の中で「来年は47都道府県が集まった大会になるよう、引続き皆様のご支援ご協力をお願い致します」と、呼びかけていました。
●交通安全イベントでも、モータースポーツでもない
なぜ記念すべき再スタートの2019年大会は不人気だったのでしょうか。全国大会の存続が不安視される理由を関係者は語ります。
「バイク人口の減少、関係者の高齢化、若者のバイク離れと、参加者が減った要因はいろいろあります。しかし、安全運転技能と交通マナーの向上という大会が果たしてきた役割は、2017年で終わったと受け止められてしまった。新しい主催者が新しい大会の方法論で参加を訴えなければいけなかったのですが、それはライダーに届きませんでした」
かつての全国大会の主催者は「全日本交通安全協会」(=安協)でした。理事長は歴代警察官僚で、現在は野田健元警視総監です。免許更新時に自動車ユーザーが購入する交通教本を編集発行するなど安定した事業と会費収入で資金力がある上に、日本自動車工業会のバイクメーカーが大会運営費の多くを出していました。
一方、二普協は毎年8月19日に開催される「バイクの日」イベントが象徴するように、環境整備や流通環境を整えることで、二輪車の普及促進を図ることが目的です。
「つまり、安協主催の大会は、参加者を呼び込むことが交通安全につながると位置づけられて、警察の協力も得やすかった。ところが、二普協の主催になると、大会の名称も趣旨も同じなのに、関係者からするとまったく性格が違うイベントだと受け止められてしまったのです」(同前)
●新機軸を、どう打ち出すか
もう1つの大きな課題は、大会のマネージメントです。
「レースに参加する場合、普通はエントリーフィーが必要です。イベンターはこの参加費と大会スポインサー料で大会を運営します。でも安全運転大会の参加は無料です。2017年大会を区切りとした原因も、実は出場者と大会運営関係者の移動費、食費、宿泊費などを含む運営費の負担が重すぎたことが大きいのです。もともとこれらの運営費が原因で打ち切られたのに、二普協に変わっても新しい収益の道を切り開けないまま、会員各社の負担で運営が行われています」
2019年大会の不振は、大会開催の目的のあいまいさや、切り詰めた運営費などが影響したことを、複数の関係者が同意します。これらの大きな課題が解決されない限り、1年後の2021年大会の円滑な実施も難しくなるのです。
さらに、参加募集にも課題があります。
「安全運転大会は10年近く前から、新しい出場者を呼び込めないことが問題になっていました。同じ顔触れで、新しい出場者は経験豊富な選手のノウハウの下で特別な訓練を受けないと表彰台には上がれません。その難しさゆえに新しい出場者がなかなか出てこないし、ベテランの出場者は飽きて参加することをやめてしまうのです」
また、大会を見学した社会人の1人はこう言います。
「見学していても、おもしろくない。参加することに意義があるのかもしれませんが、見て興味をそそられない大会に出場しようとは思わないのではないでしょうか。出場者も応援があるから頑張れる。それはモータースポーツでも安全大会でも変わらないし、それを否定したら大会の意味がない」
バイクの新車購入平均年齢は50歳を超えて、毎年その年齢が1つずつ上がっています。日本社会以上にバイクは高齢問題を抱えていたのです。解決策はあるのでしょうか。別の業界関係者は、こう提言します。
「バイク業界はメーカー、新車・中古販売、部品販売、競技団体がひとつにまとまることができる。珍しく連携がとれる業界です。例えば、レースのノウハウがあるMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)と連携して新たなバイクイベントの方法を考えたり、販売店の組織であるバイク組合に出場者の掘り起こしを依頼したりするなど、新機軸を打ち出すことではないでしょうか」
賞金も名誉も求めることなく、ライダーが自分の技術向上を確かめるためだけで50年以上続けられたことは、すべての関係者の見えない努力があったからでしょう。
ただ、それは奇跡と言うべき幸運だったかもしれません。1年のブランクを、上昇への転機とすることができるでしょうか。
(中島みなみ)