今や絶滅寸前のマニュアルトランスミッションを設定したトヨタ・ヤリスのスポーツ度をチェック!

■GRヤリスは高くて手が出ない…という人にはヤリス6MTがある!?

オールドタイプのクルマ好きとしてトヨタ・ヤリスで嬉しいのは、6速マニュアルトランスミッション車が設定されていることです。ライバルであるホンダ新型フィットにはスポーティグレードのRSの設定がなくなったため、マニュアルトランスミッションを選ぶことができなくなってしまったのとは対照的です。河島英五ばりに「時代おくれ」と言われようとも、いくらCVTが進化してダイレクト感が増しても、クルマを操っている実感を得られるという点では、MTの存在意義はまだなくなっていないと言えます。

トヨタ・ヤリス Z(6MT車)
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のエンジン
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のエンジンは1.5リットル(最高出力120ps)
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のシフト周り
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のシフト周り

ただ、クルマ好きとして気になるのは、このヤリスのMTモデルがどれだけスポーティに走れるのか、といったところ。そこで、「ヤリスの6MT車はスポーツできるのか?」という観点から、モータージャーナリストの諸星陽一さんと佐藤久実さんに試乗してもらいました。その結果は、果たして!?(clicccar編集部 ※取材は3月19日に行いました)

●諸星陽一さんの場合「シフトフィールに難あり!走りを求めると満足できないかも」

ヤリスのイメージをけん引しているのは、WRCに参戦しているマシンにほかなりません。実際にWRCを走っているヤリスはかなり高い戦闘力を誇り、優勝をはじめとしたさまざまな偉業を達成。2018年にはワールドチャンピオンにも輝いています。

2018年は日本ではまだヴィッツの車名を使っていた時代ですが、それでもヤリス=スポーティのイメージはかなり強くなっています。加えて、新型ヤリスにはモータースポーツベースのGRヤリスというモデルが存在、そのイメージリーダーとなっています。GRヤリスは1.6リットルの3気筒ターボエンジンを搭載、200kw(272馬力)のパフォーマンスを誇る4WDモデルです。

そんなモデルがトップにあるヤリスのMTですから、さぞかしスポーティな印象なのだろうと思ったのですが、これがちょっと違いました。まず、シフトストロークが非常に長いのです。とくに前後方向のシフトストロークが長く、大きく腕を動かさないとシフトチェンジが行えないのです。いわゆるスナップシフトとはほど遠いものです。

トヨタ・ヤリス Z(6MT車)の走り
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)の走り

エンジンの特性を生かせるという面ではMTは優れています。パワーピークは6600回転、トルクピークは4800~5200回転ですが、1速でフルスロットルにすれば、軽く7000回転あたりまで吹け上がります。そのまま2速にシフトアップすると、フロントタイヤが軽く空転する力強さを感じることができます。しかし、そのシフトフィールが…前述の通りなのです。確実性はあるのですが、動かしておもしろいものではありません。

そもそもなんでMTが楽しいかといえば、速度に合わせてギヤを選ぶことが一番にあると思っています。MTのほうがトルクの伝わり方がダイレクトだから…というようなことは5番目ぐらいの魅力で、基本の楽しさは「操作」です。だから、ATにマニュアルモードがあったり、CVTに分割モードやステップシフトモードがあったりするわけです。

トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のホイール
試乗車のホイールはオプションの16インチアルミタイプ(標準は14インチスチール)。

そして、今回の試乗車にはちょっと不思議さがありました。ピュアエンジンCVTモデルやハイブリッドモデルと比べて、足回りがやけに柔らかかったのです。じつは、今回の試乗後にその旨をトヨタに伝えました。そしてMTとCVTで足まわりの差は無いことを確認しています。もしかして、何かのセッティングミスかと思い、数日後に別媒体の試乗で改めて同じ個体に試乗したのですが、やはり柔らかったのです。原因は不明ですが、この足まわりでこのMTフィールだと、走りを求めてMTモデルが欲しい方だとイマイチかもしれません。CVTや2ペダルは苦手という人で、何としてもMTに乗りたいなら大丈夫でしょう。

諸星陽一
諸星陽一さん

(写真:奥隅圭之、文:諸星陽一)

●佐藤久実さんの場合「スポーツモデルではなくても素性が良いから運転が楽しい!」

新型ヤリスには、6速マニュアルトランスミッション搭載モデルがラインナップされます。廉価バージョンでもスポーツグレードでもありません。それどころか、Z、G、Xの各グレードに設定されているのです。モード燃費は今時、CVTの方が良いので、燃費のためでもありません。

ヤリスはグローバルモデルであり、国によってはまだまだマニュアルトランスミッションが好まれる傾向もあります。特にキビキビと機動性に優れるコンパクトカーにおいてはよりその傾向は強いですね。もっとも、最近のトヨタは、CH-Rやカローラなどにもマニュアルトランスミッションがラインナップされています。「もっと良いクルマを作る」姿勢と共に、「クルマ好きを増やす」という作り手の思いも感じられます。少数派のマニュアル好きに応えてくれるのは嬉しいですね。

ドライバーシートに座った時、ヒップポイントとペダルの位置関係もしっくりきます。アクセルペダルとブレーキペダルの間隔、差度も違和感なく操作性に優れ、CVT同様ペダルの剛性感もあり、クラッチペダルは軽くて苦になりません。そして、シフトフィールも、節度感はありながら軽やかで、小気味良くドライブできます。

トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のインパネ
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)のインパネ

走った印象としては、基本、CVTもマニュアルも、同じ乗り味を狙っているんだなーと。もちろん、重量や前後重量配分の違いもあるので、細かい差異はあります。実際に、サーキット試乗では限界域で走ればコーナー進入時のノーズの入り方とか、加速感とか、微妙な違いはありました。が、新型ヤリスは、ガソリン(1.0リットル or 1.5リットル)orハイブリッド、CVT or 6MTという選択肢がありますが、どれに乗ってもリヤがどっしり踏ん張っていて、安心・安定。それでいて、ステアリングを切ればスッと思い通りに曲がって軽快なハンドリングというキャラクターは共通しています。

トヨタ・ヤリス Z(6MT車)の走り
トヨタ・ヤリス Z(6MT車)の走り

でも、不思議なもので、何故かマニュアル車に乗ると、ついつい高回転までエンジンを回したくなるし、コーナーもちょっと頑張って走りたくなってしまうんですよね。しかも、そんなドライビングにもヤリスはちゃんと応えてくれるから益々運転が楽しくなる!

スポーツモデルではないけれど、素性がしっかりしているので、カスタマイズのベース車としても魅力的。オリジナルの1台を作るのもまた楽しそうです。

佐藤久実
佐藤久実さん

(写真:奥隅圭之、文:佐藤久実)

「トヨタ ヤリス Z」諸元表
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1000kg
エンジン
・種類:直列3気筒
・総排気量:1490cc
・最高出力:120ps(88kW)/6600rpm
・最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4800-5200rpm
駆動方式:FF
トランスミッション:6MT
燃費:19.6km/L(WLTCモード)
価格:187万1000円