トヨタが工場環境と製品機能の向上を両立したアルミ鋳造技術を開発し、第66回「大河内記念生産賞」を受賞

■シリンダーヘッドの世界初となるアルミ鋳造技術が受賞の対象

工場環境と製品機能の向上を両立した画期的なアルミ鋳造技術を新東工業と共同開発したトヨタ自動車。2020年4月3日、「第66回(令和元年度)大河内賞」の「大河内記念生産賞」を受賞したと発表しました。

「大河内賞」は、大河内記念会が毎年、生産工学や生産技術、生産システムの研究開発、実施などに関する顕著な業績を表彰する伝統と権威ある賞の1つです。なお、トヨタとしては今回が3年ぶり、12回目の受賞になるそうです。

トヨタ 大河内記念生産賞
開発、製造担当者

トヨタでは、2015年に公表された「トヨタ環境チャレンジ2050」の1つとして、「工場CO2ゼロチャレンジ」の実現に向けた取り組みを推進。さらに、「CASE」というキーワードが使われるなど、電動化が進む中で、高い熱効率を実現する技術などエンジンの進化も求められています。この2つの背景から、トヨタは今回受賞したアルミ鋳造技術を開発しています。

■熱効率41%の新型エンジン(「Dynamic Force Engine」)の量産に大きく寄与

今回、トヨタが受賞したのは、エンジンの性能を左右するシリンダーヘッドの世界初となるアルミ鋳造技術です。シリンダーヘッドの冷却水路は、通常、中子(なかご)と呼ばれる砂を接着剤で固めた砂型で形成されます。中子の製造方法として現在主流となっている技術は、接着剤として有機物質であるフェノール樹脂が使われています。これにより、鋳造時に臭気と煙が発生し、臭気ガスの処理のための大型脱臭設備が必要になる課題があったそう。

トヨタ 大河内記念生産賞
シリンダーヘッドの作り方

一方、エンジン性能を向上させるためには、シリンダーヘッドの冷却能力を向上させる必要があり、冷却水路を細く複雑な形状にすることが要求されます。煙と臭気を発生させないために、接着剤に無機物質を用いることが有効だそう。しかし、無機物質を使った中子製造方法で、複雑な形状を作ることや砂を再利用できる方法は、存在しませんでした。

トヨタ 大河内記念生産賞
シリンダーヘッド冷却水路の構造

今回、トヨタが開発したアルミ鋳造技術は、臭気や煙が発生しない無機物質の水ガラスを使用。さらに、複雑な形状にも対応でき、砂が再使用できる世界初の技術。熱分解しない水ガラスを接着剤とし、アルミ鋳造時における臭気濃度を1/100以下にすることに成功し、脱臭設備の投資が削減できたそうです。

また、界面活性剤の働きでムース状にし、砂の流動性を改善することで、シリンダーヘッドの細く複雑な冷却水路を実現し、熱効率41%の新型エンジン(「Dynamic Force Engine」)の量産に大きく寄与しています。さらに、砂処理温度の低温化を実現したことにより、CO2排出量は従来の半分以下になっています。

砂の流動性の比較。左が従来技術で、右が新開発された技術

現在、同技術を採用したシリンダーヘッドは世界中で展開されています。今後は、トヨタだけでなく社外への技術展開を計画するなど、地球環境や社会にプラスとなる取り組みを通じて、持続可能な社会の実現に貢献するための新たなチャレンジを続けていくと表明しています。

(塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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