「黒豆」をモチーフにした凝縮スタイルは成功したのか? 新型ヤリスのデザインを検証する

国内のヴィッツから海外名称に統一した新型ヤリスは、すべてを一新した渾身のモデルチェンジを行ったといいます。

コンパクトさを前面に出したという新型のデザインの完成度は? 今回はエクステリアに注目して検証したいと思います。

■コンパクトに凝縮された弾丸ボディ

ヤリス・メイン
大胆・活発・美をコンセプトとした新型は、弾丸のようなスピード感も表現した

新型のデザイン・コンセプトは「B-Dash!」。BOLD(大胆)、BRISK(活発)、BEAUTY(美)に加え、弾丸(BULLET)のようにダッシュするイメージを組み合わせたものです。そのモチーフを「黒豆」としたのはすでに知られているとおりで、小さく、ふくよかでツヤのある面の表現として、なかなかいい例えだと言えます。

実際、いまどき全長を短くしてまでコンパクトさにこだわったボディは強い凝縮感を持っていて、逆に40mmも伸ばされたホイールベースによって四隅にタイヤが配置され、しっかりとした踏ん張り感を打ち出しています。この弾丸形状の中、リアに向けて上向きとなるベルトラインにも違和感がなく、さらにリアウインドウと一体になったコンビランプは後ろ姿にも凝縮感を与えました。

つまり、後席の居住性を割り切ってまで打ち出した「B-Dash!」というコンセプトに間違いはなく、的を射ていたと言えます。しかし、ではエクステリアデザインの評価が100点満点かというと、残念ながらそうは言い切れません。

ヤリス・リア
ウインドウとコンビランプを一体とすることで凝縮感を表現したリアビュー

たとえば、フロントフェンダーからナナメに下るライン。マツダの「魂動デザイン」にも似た表現ですが、ベルトラインが駆け上がる一方で、なぜこの線が必要だったのかが不明です。

また、リアフェンダーのフレアを囲む強いライン。先のとおり四隅のタイヤが踏ん張る表現自体はいいのですが、だからといって、これ見よがしの説明的な線を引く必要はなかったのでは? これでは黒豆が台無しです。

そして大口を開けたフロントグリル。どうして開口部をこんなに複雑怪奇な形状にしなくてはいけないのでしょうか?

■黒豆の美しい表面はどこに?

トヨタが「もっといいクルマ」を標榜し、TNGAなる思想を取り入れて以降、カムリ、クラウン、カローラと、新型車はどれも「スポーティ」指向。その中で、とりわけ新型ヤリスはWRCでの活躍という具体的な役割を前面に出しています。

ヤリス・コンセプト
クルマの中心から四隅にタイヤを張り出すイメージをテーマとした

ただ、そうして強いスポーツイメージを出すために、強いラインや派手な形状が必要というのはちょっと違う気がします。たとえば、コンパクトカーのクオリティを一気に引き上げた初代(ヴィッツ)は、明るく快活な佇まいがスポーティとも言えたし、12代目の「ゼロ・クラウン」は端正な中に走りの躍動感が漲っていました。

つまり、スポーティであるためには必ずしも派手な「スポーツウェア」を着る必要はないのです。カジュアルなジャケットはもちろん、スーツだって着こなしによってはスポーティになり得るのです。

その点、新型ヤリスは「ダッシュ」の表現がいささか浅かったようです。せっかく黒豆というユニークなモチーフを思い付いたのに、勢い余ってその美しい表面に自ら雑音を入れてしまった。そこをグッと我慢する抑制力があったら、どんなに美しいコンパクトカーになったかと思うのです。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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