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■股関節や膝、足首の動きが悪くなるとペダル踏み間違いにつながる
●新旧マツダ車のペダルの違いで高齢者の操作性がどう違うか比較テスト実施
テレビやネットのニュースで連日のように報道されている、高齢者のペダル踏み間違いによる事故。時には歩行者を巻き込み痛ましい死亡事故となることもあります。では、どうして高齢者がこのような事故を起こしてしまうのでしょうか。
警察庁が発表した「高齢運転者に係わる死亡事故の特徴について」という資料によると、死亡事故の人的要因を見てみると、75歳以上の高齢ドライバーではハンドル操作やアクセル・ブレーキペダルの踏み間違いといった操作不適が29%と最も多く、次いで安全不確認の23%となっています。
しかし75歳未満のドライバーでは、安全不確認が26%と最も多く、ついで、漫然運転などの内在的前方不注意が24%で続き、75歳以上の高齢ドライバーで最も多かった操作不適は15%に留まっています。この結果を見ると、操作不適を引き起こすのは加齢による体の衰えによるものと考えられます。
●高齢者疑似体験セットで70歳に変身してみた
そこで今回は、高齢者疑似体験セットを身に付けて、実際に車に乗り込みペダル操作などを行い、普段とどのような違いがあるのかを体感してみることにしました。
想定しているのは、70歳ぐらいの一般的な高齢者。前のポケットにオモリの入ったジャケットを着て前のめりの姿勢を再現します。
そして、靴はO脚になるように細工がほどこされ、ソールの部分を厚くすることで、筋力の低下に伴い思った以上に足が上がらない状態を再現しています。
さらに足の内施を再現するために膝サポーターを装着。これによってまた関節とかかとを軸に回転できる足の角度が制限されるということです。
これらを全部装着すると、普通に歩くことも大変! ちょっとした段差でもつまずいてしまうことがありました。
●テスト1:「駐車場における後退時」でのペダル操作比較
今回の実験は先代のアクセラセダンと最新のマツダ3セダンをテスト車として使用しました。
まず、高齢者事故ケースの実体験として行ったのは、「駐車場などでバックしてクルマを入れる」というシーンです。以下のような流れで行います。
1:ブレーキペダルを踏んだ状態で体を左に捻り、後方を確認。
2:ペダルをブレーキからアクセルへと踏みかえて後退開始。
3:人が飛び出した想定で、「危ない」という声に合わせてブレーキへと足を戻す。
そして同様のことを、右に体を捻り窓の外に顔を出して後方に注意を払いながら行ってみました。
高齢者擬似体験セットを装着していると、いつものようには操作できませんでした。ペダルを踏み換える際、普段は膝を曲げて足を持ち上げて操作するのですが、膝がサポーターで固定されていることと、厚底の靴を履いているため、足を簡単には持ち上げられないのです。
アクセルが吊り式のアクセラの場合は、かかとが奥にずれてしまうため、靴がブレーキペダルに当たってしまい上手く踏み替えることができませんでした。
一方、新型のマツダ3セダンが採用しているオルガン式のアクセルペダルの場合は、右足のかかとの位置が固定されているので、ブレーキペダルへの移動も大分スムーズに行うことができました。
●テスト2:「駐車場におけるチケット取り出し時」でのペダル操作比較
続いて行ったのは、駐車場などでのチケットの取り出すシーンでの比較です。具体的には、以下のような流れを想定しています。
1:ブレーキを踏んだ状態で、体を右に傾けてチケットを取り出す。
2:足がねじれて滑りやすくなるため、アクセルペダルを踏んでしまう。
3:慌ててブレーキに足を戻す。
アクセラは右前輪のホイールハウスがアクセルペダル付近に出っ張っているため、ペダルが左側によっていて足をひねるようにしてペダルを踏まないといけません。
しかし、新型のマツダ3セダンはホイールハウスの出っ張りが少なく、足を真っ直ぐ出すとペダルがあるという位置にレイアウトされてます。そのため、ペダルの踏み換えがとてもスムーズです。
筆者はまだ50歳ですが、今回高齢者の疑似体験セットを身に付けてクルマを操作してみて、膝が動かないというのはいかにペダル操作に大きな影響を与えているということがわかりました。そして、ペダルの位置やオルガン式ペダルをなぜマツダがこだわるのか。その理由もよく理解できたのでした。
(文:萩原文博 写真:長野達郎)