ホンダ・フィットに公道試乗! 1.3Lガソリン車の走りはルックス通りの“癒し系”だった

■「心地よさ」という新指標で開発されたコンパクトカー「フィット」のよさは1.3Lガソリン車でこそ味わえる

2019年秋に開催された東京モーターショーにおいてプロトタイプがお披露目され、そのデビューが今か今かと待たれていたホンダ・フィットの発売が2月14日から始まっています。そして、ついにナンバーのついた状態で公道試乗をすることができました。

言わずもがな、ホンダの重要モデルであるフィットですから、そのフルモデルチェンジには力が入っていることは容易に想像できますが、新型フィットが目指したのは、そうした肩に力が入っているのとは真逆の世界です。開発のグランドコンセプトは『用の美・スモール』。言い換えれば、人の”心地よさ”をデザインしたコンパクトカーであり、人の気持ちを研究して生み出されています。

そのため数字を追いかけることをあえて止めたのだといいます。ラゲッジスペースをライバルより1mmでも大きくすること、先代モデルに対して0.1km/Lでも燃費性能を上げること…これまでのフルモデルチェンジではそうした数値目標が掲げられがちでした。新型フィットでは、そうした数字にとらわれることなく、心地よいと感じるクルマを目指したというわけです。人が使う工業製品としては当たり前と思うかもしれませんが、従来のクルマづくりからするとドラスティックにスタンスが変わったといえます。

新型フィット1.3ガソリン車
ホンダ・フィットNESS。ボディカラーはシャイニンググレー・メタリック×ライムグリーン、ディーラーオプションを除いた撮影車のメーカー希望小売価格は1,965,700円

新型フィットは上下のあるグレードという考え方をなくし、フラットに5つの仕様を用意しているのも特徴です。今回は、16インチのアルミホイールを標準装備するなどスポーティな雰囲気を持つ「NESS」の、前輪駆動(FWD)のガソリン車に試乗することができました。

1.3LエンジンとCVTというパワートレインの基本は、じつは先代モデルからキャリーオーバーしたもので大きく変わっているわけではありません。しかし、構造を見直したというフロントシートや板厚を上げたというダッシュパネルなど各部の骨格を引き締めたことで走りをレベルアップさせているといいます。なにより乗り込んでドアを閉めた瞬間の静粛性に驚かされます。技術的にいうとドアシールの全周二重化などが効いているのでしょうが、とにかくドアを閉めると周囲のノイズがフワッと消える感じは衝撃的な静けさです。

新型フィットコクピット
シンプルでいかにも使いやすい雰囲気の運転席まわり。シートの出来も秀逸

コクピットの雰囲気は完全に新しいものになっていました。2本スポークのステアリングホイールが象徴するようにシンプルな操作系で、そうしたハードウェアの進化をことさらにアピールするものではありませんが、パッと乗っても全体にしっかりしていることが感じられます。シフトレバーは5ポジションの新設計されたもの。ガソリン車ではエンジンブレーキを強める「S」ポジションがあるのですが、そこから通常の「D」ポジションに戻す際に勢い余って「N(ニュートラル)」まで行ってしまうようなことはなく、非常に使いやすいストレートタイプのシフトとなっていました。こういう部分でのストレスを軽減しているのも”心地よさ”を考慮したからこそでしょう。

乗り心地は、心地よいと感じるための重要な性能ですが、そこはコンパクトカーとしてかなり高いレベルになっています。ご存知のように新型フィットには1.5Lハイブリッドも用意されていますが、ボディの軽さや前後重量配分の違いなのか、1.3Lガソリン車のほうが、日常領域での乗り心地についてはリードしていると感じるほど。とくにリヤサスペンションの衝撃のいなし方は秀逸で、ファミリーカーとしてもレベルが高いところにあるといえます。正直、16インチのタイヤを履いているとは思えないマイルドな乗り心地です。

新型フィットラゲッジスペース
ラゲッジは十分に広いが、スペースよりも後席の乗り心地を重視した設計だ

ファミリーユースとなると気になるのは後席ですが、こちらも前席同様に”心地よさ”を指標として作り込まれたもの。前席よりもクッション性があって、リラックスできる空間となっています。また、この手のコンパクトカーではラゲッジ性能を高めるために背もたれを短めにしたり、クッションを薄くするなど乗り心地が犠牲になっていることもありますが、新型フィットについてはそうしたアプローチはまったく感じられません。とにかく人が心地よく乗れることを最優先した後席です。後席格納時に完全にフラットなフロアにはならないのですが、それこそ人優先で作ったことの証左といえます。

前述した静かなキャビンという印象は走行中でも変わりません。ボンネットを開けて確認するとエンジンはそれなりにノイジーなのですが、乗っていると音はほとんど感じませんし、アイドリングストップからの復帰でも始動時の振動は気になりません。まさしく心地よい走りが自然と味わえるのです。

新型フィットNESS後ろ姿
AピラーからCピラーにかけてライムグリーンとすることでアクティブな雰囲気を演出している

今回の試乗では、高速道路を走る機会もありましたが、電子制御に頼らずとも直進安定性が高く、パワートレインは十分なパフォーマンスを示すのでストレスはありません。ワイドタイプの単眼カメラ(モービルアイ)だけで制御しているという先進運転支援システム「ホンダセンシング」の追従クルーズコントロールや車線維持アシストを使えば、さらに快適にストレスや疲労感のない高速巡行が味わえます。

本当に狭いところでは、ノーズ位置が把握しづらいというのは唯一気になったポイントですが、Aピラーを細く絞ったことで死角は減っていますし、市街地でもストレスなく乗ることができるのも、心地よさを指標に開発してきたからでしょう。

ホンダに限った話ではありませんが、スペック至上主義からの脱却は長いこと国産モデルのテーマとされてきました。このところ、そうした方向性でのクルマづくりが定着してきた感もありますが、新型フィットでは数字を追いかないという姿勢を徹底した開発が進められてきたと感じます。

コンパクトカー、ファミリーカーとして新型フィットはおススメできます。それだけでなく、ここを起点にホンダのクルマづくりが変わっていくとも感じます。コンパクトカーの新指標となり得る志の高い、注目モデルです。

●ホンダ・フィットNESS(FWD)主要スペック

車両型式:6BA-GR1
全長:3995mm
全幅:1695mm
全高:1540mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1090kg
乗車定員:5名
エンジン型式:L13B
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1317cc
最高出力:72kW(98PS)/6000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kg-m)/5000rpm
変速装置:CVT
燃料消費率:19.6km/L (WLTCモード)
タイヤサイズ:185/55R16
メーカー希望小売価格(税込):1,877,700円

(自動車コラムニスト・山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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