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後篇では高速道路に乗り入れて、イヴォークのクルーザーとしての能力と自動運転支援システムの実力を観察してみましょう。
D180というグレード名が示すとおり、最高出力180psのディーゼルエンジンは4000rpmから先がレッドゾーンと、最近のディーゼルエンジンとしては控えめな設定ですが、フルスロットルでは4200rpmくらいまで吹け上がり、パワー不足を感じさせません。
エンジンとして特別面白みがあるわけではないけれども、4気筒のディーゼルエンジンとしては非常に滑らかで、静か。高速道路でも100km/h巡航でのエンジンスピードを1200rpmまで絞りつつ、少しでもレスポンスが必要になるとギアを適切に下げて潤沢なトルクを供給してくれます。動力性能とレンジローバーというブランド名に恥じることのない快適性を両立したパワートレインといえるでしょう。
燃費は往路、東京から神戸まで一気に502.3kmを走り抜けたシーンでは、平均速度75km/hで17.2km/L。100kmほどの一般道を含む高松までの往復1372.6kmを平均速度68km/hで、16.2km/Lという値でした。車検証上で1970kgと、なかなかの重量級であるわりにはかなりの低燃費と言えそうです。
■アダプティブダイナミクスはお薦め装備
サスペンション設定をコンフォートモードにしたまま100km/hを保っていると、乗り心地自体は非常に快適ではあるものの、若干ボディの動きがふわふわすることに気づきます。しかし、仮にそこで少々急な回避操作をしても、オプション装備の減衰力可変ダンパーが即座に体勢を整えてくれて、ステアリングを素早く切り返す瞬間も不安なくやり過ごすことが可能です。
電子制御ダンパーというのは、長く乗ることを考えると修理や交換が高くつくので個人的にはあまり好まないのですが、車高の高いSUVでは能動的安全性向上に大きく貢献する装備だと思います。
一方ダイナミックモードでは若干路面からの突き上げ感は強まるものの、路面の状況をより正確に掴むことが可能になります。緊張感を持って速めのペースを維持する際には、ダイナミックモードを選んでおけば常に安心感が得られるでしょう。
こうした操縦性に対する安心感には、非常に精密な手触りのステアリングとリアにマルチリンク式を奢ったサスペンション、そしてバランスの取れた前後重量配分(車検証上で59:41)がよい影響を与えています。筆者の身の回りでは先代イヴォークを愛車に選んだ人が何人かいますが、彼らはいずれも運転が好きで上手な人々です。
イヴォークは前輪駆動ベースのSUVながらバランスが取れていて、いざという時に必ずドライバーの期待に応えてくれるハンドリングの持ち主と言えます。
■7時間連続走行も苦にならない快適性
東京から神戸まで一気に駆け抜けたロングクルージングでは、全般的に快適性が高いことに感心させられました。静粛性について言うと、オフロード性能よりも乗用車的な性能を重視したタイヤがロードノイズを抑えているほか、ディーゼルエンジンもほとんどその存在を意識させません。
そして特に美点として強調したいのは、シートのつくりが素晴らしいこと。7時間近くほとんど座りっぱなしでも全然腰が痛くなりません。座面とバックレストがともに大ぶりで厚みがあることに加えて、ランバーサポートのエアクッションがかなり大容量なので、そこが振動をうまく吸収している気がします。
その一方で唯一弱点として指摘しなければならないのは、巡航時の直進性があまり高くないことです。
高速道路の上だと、ステアリングに常に注意を向けていないと車線の中で何となく居場所が定まりません。路上に起伏があったときも、横方向の路面の傾斜に対しても比較的ハンドルを取られやすく感じます。235/50R20というサイズで、ショルダーも角ばった、まるでスーパースポーツカーのような扁平タイヤを履くためでもあるかもしれません。
■年々進化するレーンキープアシスト
高速道路での移動には、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)とレーン・キープ・アシスト(LKA)を積極的に利用しました。
ACCが着実に働いてくれるのはいまや当然のこととして、LKAは2年前のジャガーに比べかなり進化しています。車線からはみ出す気配をドライバーに教えるというよりも、能動的に車線の中に留まるべく、ときには最大で親指2本分程度グイッとハンドルを切ってくれ、意図しない車線逸脱をかなりの確率で防いでくれるでしょう。
衝突警告システムと組み合わせたエマージェンシーブレーキは、かなり正確に前方の危険性を察知してくれるので、ふと意識が前走車から離れているときすぐに制動に移れるという意味で、大きく安全に寄与するシステムだと思いました。
■本領発揮には十分な予算が必要
(全幅を除けば)コンパクトなボディサイズの中に、先進的なテクノロジーとデザインをふんだんに盛り込んだレンジローバー・イヴォークは、走らせてもクオリティの高さを存分にアピールできる優等生でした。
購入にあたって注意すべきは、イヴォークの本領を発揮すべく次々にオプションを選んでいくと、気がつけば“レンジローバーの名に恥じない”車両価格になっていることでしょうか。
ガソリンモデルのスタートラインは472万円ですが、ディーゼルを選ぶと535万円となり、今回の試乗で明らかに有用だと思うものだけ控えめにオプションを追加しても、総額650万を超えるのはあっという間です。実際、今回の試乗車には合計255.1万円ものオプションが搭載されていました。
しかしかつて日本の輸入車業界で主流だった、「なんでもかんでも標準装備にしてある代わりにボトムラインが高額」という商習慣が改められ、個々のオーナーが自分の好みで装備を選べるようになったことは大いに歓迎すべきだと思います。
(花嶋言成)