■世界で初めての自立エネルギー型燃料電池船にトヨタの燃料電池システムが搭載された!
ゼロエミッションへのアプローチを全方位的に進めているトヨタ。水素を用いて発電する燃料電池車(FCV)の市販化でリードする存在ですが、その燃料電池(Fuel Cell 、略称FC)技術を初めて船舶向けに応用することを発表しました。
フランス初の国連SDGs(Sustainable Development Goals : 持続可能な開発目標)アンバサダーシップとして、再生可能エネルギーで世界一周航海を目指している「エナジー・オブザーバー号」向けのFCシステムを開発したといいます。この船は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを利用して海水から生成した水素を使って燃料電池を動力とする、世界で初めての自立エネルギー型燃料電池船ということです。
船舶用に最適化されているということですが、燃料電池技術の基本は世界初の量産FCV「MIRAI」の開発によって得たノウハウを活かしたもの。自動車においてはFCVは電気自動車(EV)とコストや利便性について比較されますが、スタンドアロンで運用される船舶においてはそのメリットは大きいようです。なにしろ海上では外部充電をすることは難しいからです。
また、スタンドアロンでの運用ということは太陽光などの再生可能エネルギーによる発電の非オンデマンド性が課題として露呈します。ようは必要なときに、必要なだけの電力供給をすることが難しいわけです。シンプルな例をあげれば太陽光で発電できるのは昼間ですが、照明が必要なのは夜間になります。さらに駆動力まで電力でカバーするならばバッテリーを搭載してカバーしようとすると、多量のバッテリーが必要です(当然ですが重量がかさみます)。
ですから、再生可能エネルギーでの発電で余った電力を使って、水素を生成しておき必要に応じて燃料電池によって発電するというのは、重量面でも有利ですし、エネルギーの利用方法としては実はシンプルなのです。まして、「エナジー・オブザーバー号」は自立したスタンドアロンでの運用を前提としています。海上というシチュエーションを考えても水素燃料電池を利用するというのは理にかなっています。
プラグインによる電気の活用、再生可能エネルギーにより生成した水素の活用。どちらが正解というのではなく、状況によって最適解は変わってくるといえます。電力網や供給が安定している都市部であれば外部充電を利用するほうが利便性やコストで有利というのがゼロエミッションビークルにおける今時点での解といえますが、この船のようにある程度はスタンドアロンで活用することを考えると水素燃料電池が有利となってきます。
つまり運用条件において最適なゼロエミッションは異なるわけです。SDGsのアンバサダーシップである「エナジー・オブザーバー号」の話題をきっかけに、バッテリーと燃料電池それぞれの利点を考えたりするのも、次世代モビリティをイメージするヒントになることでしょう。どちらか単独で使うというのではなく、適度にミックスした社会というのも理想としてあり得る姿です。
いずれにしても、再生可能エネルギーを用いる、ある程度閉じた系においては水素燃料電池は不可欠であることを「エナジー・オブザーバー号」のチャレンジは示しているといえそうです。
(山本晋也)