●国産エンジン初の2L直6 OHCエンジンが奏でる乾いたサウンドも聞ける!
2006年に発足し日産のラリーカーやレーシングカーなどをレストアし、走行できるようにしている「日産名車再生クラブ」。2019年に再生したのがプリンス・グロリアスーパー6のレース仕様車。
ここではパワートレイン系の再生にまつわる苦労話を紹介します。
エンジンのレストアを担当したカワイさんによると、エンジン内部はオイルで真っ黒でラジエターなどの冷却系はサビていたそうです。ウォータジャケットもサビサビ、ウォーターポンプはメカニカルシールを止めているスナップリングも消えてなくなっているほどで、夏はエアコンの壊れた部屋で部品をみんなで磨いたそうです。
プリンスのG7型エンジンは、量産エンジンにも関わらずワイヤーロックを使っているのを見たときに航空機メーカーの心意気を感じたそうです。
シリンダーヘッドもメンテナンスを行い、ようやくやっとエンジンが完成した頃に台風が直撃し、試走ができなかったそうです。そして富士スピードウェイでの試走前に走行テストを行った時に、シリンダーヘッドのところから水が垂れて、そのときは冷や汗が出たそうです。
ドライブトレーンを担当したオサダさんは1月31日に定年退職を迎えた超ベテランの技術者です。40年前に荻窪事業所に入社し、社内にあるマンホールにもプリンスのマークが刻まれていたりしておしゃれな会社だなと思ったそうです。
今回再生したプリンス・グロリアスーパー6のトランスミッションケースをはじめ、ドライブシャフトのジョイントの中のクロスジョイントという細かいパーツにまで、プリンスのマークが鋳込んであるそうです。
トランスミッションのコンディションは非常に良好で、1度分解して、各部の部品をチェックして組み立てられました。元々、コラムシフトをフロアシフトに改造していることもあり、ギアがニュートラルになりやすいように反力を生み出すパーツが足らなかったので、会社にあるクルマの部品を使って再生。
またクラッチのオペレーションシリンダーは当時の部品はサビサビで使い物にならず、入手困難だったので、R33GT-Rのオペレーションシリンダーを流用し、ブラケットを作成して取り付けてあるので今後何かあってもすぐに再生できるというようにしたそうです。
デフのオーバーホールをする際にオイルシールを調べてみると、耐熱温度が80度までしかもたない素材だったそうです。オイルシールはJIS規格で統一されており、どのメーカーでも対応できることがわかったので、一部は既製品で対応し、一部は120度まで対応可能なパーツを特別にオーダーして作ってもらったそうです。
●サスペンションは想像以上に良好な状態
足回りを担当したユウヒさんは、錆が酷かったものの、穴が空いていたり変形していたりすることはなく、非常に恵まれた状況だったそうです。サスペンション系に使われるボルトやナットはサイズの大きなモノが使われていて、このねじ山を壊さないように錆びたボルトやナットを外すのは非常に大変だったと話してくれました。
また、ボールジョイント系、ブーツなどはボロボロで全く使い物にならないため交換することになったのですが、現在、ボクらが触っているクルマはアッセンブリーのため、ボールジョイントなどを分解はできないとのこと。しかし、プリンス・グロリアのボールジョイントは分解できるということで、すべて分解して初めて中身を見たという状況だったそうです。
サスペンションのリンク系のところにもプレートを使って回り止めをするとか、キャンバーとかの角度を調整する部分にシムが入っているなど、非常に手の込んだ作りになっていることに驚いたそうです。
ブレーキ回りを担当したスズキさんはクラブに初参加。毎週爪を真っ黒にしてグリスとダストにまみれていましたが非常に楽しい作業だったそうです。
ホイールシリンダーの劣化を不安視して、初代キャラバンのパーツに交換。グロリアなのにキャラバンのパーツが付くのだと感心したそうです。思い入れがあったのは、ブレーキチューブの長い物を切って加工して取り付けるという作業。マスターシリンダーから2本延びているホースを見て自分がやったのだなと見えるのは嬉しかったそうです。
例年は6ヵ月かけて行う作業を、鈴鹿サーキットで行われるイベント『サウンド オブ エンジン』に間に合わせるため1ヵ月前倒しで行ったそうです。しかも2019年は台風の上陸によって作業が遅れて完成が危ぶまれたそうですが、クラブ員そして他部署、関連会社のスタッフの協力により晴れ舞台に間に合ったそうです。
技術の伝承だけでなく、他部署と連携して困難に立ち向かうということを体験できることがこの名車再生クラブの目的と、代表の木賀さんは話してくれました。
(萩原 文博)