【自動車用語辞典:衝突安全「歩行者保護エアバッグ」】衝突してエンジンフードに乗り上げた歩行者の頭部を保護する技術

■世界ではボルボが、日本ではスバルが初採用

●自分だけでなく事故の相手も守る

2016年にスバルが、国内初の歩行者保護エアバッグシステムをインプレッサで実用化しました。衝突事故を起こして歩行者がエンジンフード(ボンネット)に乗り上げた時に、頭部を保護するためにフード後端部およびフロントガラスとAピラー下部にエアバッグを展開するシステムです。

スバルの安全技術へのこだわりの表れ、歩行者保護エアバッグシステムについて、解説していきます。

●ポップアップフードシステムとは

クルマが歩行者と衝突した時に歩行者を守る技術としては、2010年頃から主要メーカーが採用しているポップアップフードシステムがあります。

ポップアップフードとは、車両と歩行者が衝突した際にフードを瞬時に持ち上げるシステムです。エンジンなどの硬い部品とフードの間に空間を確保し、歩行者の頭部がフードに当たった際の衝撃を緩和する技術です。

歩行者の衝突検知は、一般にはバンパーに取り付けた加速度センサーや圧力センサーで行います。歩行者と衝突した時のバンパーの変形をセンサーで検出して、エアバッグ用コントローラに送信してエアバッグを展開させます。

ポップアップフードシステムの作動イメージ
ポップアップフードシステムの作動イメージ

●ボルボの歩行者保護エアバッグシステム

歩行者保護エアバッグは、歩行者との衝突時にフード後端部およびフロントガラスとAピラーの下部にエアバッグを展開して、乗り上げてきた歩行者の頭部を保護するシステムです。

世界で最初に実用化したのは、2012年発売のボルボ・V40です。ボルボ・V40では、クルマのバンパー前面に埋め込まれた7つの加速度センサーで衝突を検出します。衝突物が人の足だと判定された時に、瞬時にエアバッグが展開する仕組みです。

衝突を検出すると、フードのヒンジアクチュエータでフードを持ち上げ、その隙間からエアバッグが張り出します。システム起動からエアバッグが膨らむまでは200~300ミリ秒、フロントガラスの1/3とAピラーの下部をカバーします。

●スバルの歩行者保護エアバッグシステム

日本で初めて歩行者保護エアバッグを採用したのは、2016年発売のスバル・インプレッサです。以降、スバルはXV、フォレスターと主要モデルに採用しています。

システムの基本的な仕組みはボルボと同じですが、スバル方式の方がシンプルかつ低コストで実現しています。大きな相違点は、2つあります。

一つ目は、エアバッグのフードを持ち上げるか、上げないかの違いです。ボルボは、フードを持ち上げてエアバッグを展開させます。フードを持ち上げるポップアップフード機能を兼ねています。一方のスバルは、フードは持ち上げずにフロントガラスとフードの隙間からエアバッグが噴き出て展開します。

二つ目の違いは、歩行者衝突のセンシング方法の違いです。ボルボは、バンパー前面に7個の加速度センサーを取り付けて衝撃を検出します。スバルは、パンパー全周の内側に這わせたシリコンチューブの空気圧を両端の圧力センサーで検出します。いずれも検出した加速度パターンまたは圧力パターンを、人の足に衝突した際の標準パターンと照合することによって、人との衝突かどうかを判定します。

歩行者保護エアバッグの展開イメージ
歩行者保護エアバッグの展開イメージ

歩行者保護エアバッグは、衝突安全技術に積極的に取り組んでいるボルボとスバルならではの技術です。

歩行者を検知して対歩行者自動ブレーキで衝突回避を図り、それでも衝突してしまったら歩行者保護エアバッグで被害を最小限に食い止める、乗員だけでなく歩行者も守る安全技術です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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