目次
■高校生がやっていることは「暴走族と同じ」と学校が指弾
●バイクに触れるのは違反
静岡県伊豆市の工業科のある県立高校で、事実上の廃部処分を受けた部員がクラブ活動の承認を求めて署名活動を続けている。地元の商店街や自動車関連産業へと賛同の輪は広がり、すでに2000人以上の署名を集めている。
部活動の名前は「原動機研究部」。高校は2010年に2校の合併で新設されたが、前身の高校から30年以上続く歴史ある部活動だ。しかし、2019年8月、富士スピードウェイで開催されるカブカップに出場することが「校則に違反する」として突然、活動の自粛を求められた。
出場の意思は学校にも伝えていたが、高校生初のカブ耐久レース挑戦と静岡新聞が報じた直後のことだった。
文化祭では自作車両の展示も活動に掲げている。部員はエンジンの分解・組立という整備の基本を身に着けたいと考えるようになった。実際に動かしてみたいという気持ちがあった。しかし、学校側はそれにも難色を示していた。学校の授業ではエンジン整備を学ぶ時、プラスチックモデルを使っていた。ブロックに手を挟むことを学校が心配したためだ。同じ理由で、エンジンを動かす危険物であるガソリンを使って始動させることも認めなかった。ただ学校は一方で「2018年度から教育の一環として燃料電池を主軸に燃料電池を活動の主軸として取り扱っている」と、部員にさらに高いハードルも課していた。
部員は危険物取扱者の資格を取得。学外の農家を回り、同じエンジンを使った草刈り機を借りて分解整備で手腕を磨いた。また整備した草刈り機で農家を手伝い、アルバイト代をエントリーフィーにあてたという。多くの部活と同じように部員の能力が高くなるほど専門的な外部指導者が必要になるが、部員が求めても学校は応じなかった。部員は地元の整備工場などを回って掃除を手伝ったりしながら、専門知識を身に着けていった。
●暴走族とやっていることは同じ?
学校は積極的に生徒が部活動の範囲を広げていくことを好ましいとは思っていなかったようだが、高校生が社会の中に飛び出して学ぼうとする姿勢は、各方面に広がる共感の輪は拡げた。24時間耐久優勝経験のあるレーシング・ドライバーの関谷正徳氏や自動車メーカーの開発研究拠点の理解も得て、部員の知識はさらに専門的となり、参加できる四輪車両が無償で提供された。その車体にはラーメン店など地元商店街の店名が並んだ。フロントには高校がある伊豆市のひときわ目立つ水色のステッカーが輝き、大きな支援を示していた。
それでも学校は、生徒の部活は学外の時間を使った非公認の活動であると、一線を引いた。部活として行うことは学校の指導に従わず、レースに出場しようとする。「暴走族とやっていることは同じだ」と指弾した。校則には免許取得、車両入手、運転、同乗の禁止が定められている。部活動と個人活動、そのどちらでも免許取得は認めなかった。
学校を指導する静岡県教育委員会高校教育課はこう言う。
「いろいろ行き違いがあるようで、学校と保護者、生徒が充分に話し合うべきだと、9月から学校にはお願いしている」
●署名活動は今も継続
冒頭の署名は、1月10日から開催された東京オートサロン2020でも行われた。署名には大手自動車メーカー代表取締役の名前も連なった。 署名は学校が「せめて全校生徒の人数分ぐらいの署名を集めたら話を聞く」と説明したことがきっかけだった。
生徒総数は約600人。生徒が持参したのは1894人分の署名。校長室を訪れた生徒に向かって学校はこう説明したと、関係者は明かす。
「人事異動などで忙しく時間がとれない」
部員が話し合いを急いだのは理由があった。活動計画が立てられず、新入部員募集もできない。すでに3年生は引退。残った数人では最小構成人数に届かず、学校が正式に廃部を旋転しなくても自然消滅する。
署名の題名はこうだ。
『私たちが正式に部活動として活動することについての請願』
理由 現在の私たちの活動は正式なものとして認められていないが、これを正式なものとして活動してこれからもっと盛り上げたいからです。
請願事項
1.学校が決めた年間計画以外の活動はしないのではなく、部活動指針に沿った生徒の意思を尊重した活動をさせてほしい
2.部活動に顧問の先生の可能な限りの出席、または部員が依頼した外部顧問の許可をしてほしい
3.活動するために必要な資格などを取れるように校則の改定をしてほしい
署名は今も続いている。
(中島みなみ)