●鬼教官がガチ審査。優勝したテクニシャンは中国スバルで働く6年目のチェンさん
ラグビーワールドカップ日本大会の大成功は日本を「ワンチーム」にしてくれましたね。そんな大興奮したW杯のように、世界から選抜された選手が正々堂々競い合う大会が、2019年11月13日に神戸国際会議場で行われました。それが「SUBARU世界技術コンクール」です。
何を競うコンクールなのかというと、スバルに勤務するメカニックによる整備技術です。2年ごとに世界大会が開かれており、今回で7回目。世界14ヵ国からスバル販売店に勤務するメカニックの皆さんが集結しました。国ごとの代表はわずか1名、厳しい予選と筆記試験を経たスペシャリストたちですです。
「迎え撃つ」ホーム立場の日本代表は、栃木スバルに勤務する松本 拓選手です。2018年の全国スバル・サービス技術コンクールで優勝した強者です。
「安心と愉しさをお客様にお届けする」という企業スローガンを掲げるスバル。お客様と直接応対するサービス部門の技術向上は、こうして世界レベルの大会で鍛えられていたのです。「お客様を待たせない正確な作業を」というわけで、実技試験の内容は日常の作業の延長線上にあるように見せかけて、なかなかの「いじわる問題」が設定されました。
最初の試験は「エンジンパーツの計測および分解組み立て」。制限時間は30分で、正確な測定・分解組み立ての手順によってポイントが加算されていきます(最大80ポイント)。
まずは、単体で置いてあるFB20水平対向エンジン(2016モデル)の、バルブクリアランスを計測していきます。それをシートに記入し、基準値を超えている箇所を特定していきます。そして、カムクリアランスに応じたシムを選択、それを組んでいきます。
静まりかえった会場で、皆の視線を浴びながらの作業。緊張でどうにかなりそうな特殊な環境下ということもあり、制限時間内に作業完了できなかったチームも、モニター上ではいくつかあったようです。
一連の作業は、かたわらの審査員がまさに一挙手一投足くまなく、サービスマニュアルどおりの手順で進められているかチェックしていきます。すべてのボルトを適正な順序で、規定値で均等に締めたかはもちろん、使い終わった道具をきちんと清掃しているかも見られます。
群馬で生まれたエンジンを、多国籍のサービススタッフが必死に組み上げていく姿に感動です。外したヘッドを上向きに置くのか下向きに置くのか。ふだんの仕事のやり方が出るようで、それぞれの選手によって違いが見られました。なにより違ったのは各国のワークウェア。長袖か半袖か、つなぎかセパレートか、ペンホルダーの有無など、それぞれ個性がありました。このあたりスバルファンとしては見逃せないところかもしれませんね。
ちなみに作業を行うブースは国ごとにパーティションで区切られ、他のチームの動きがわからないようになっています。試験を邪魔しないようにBGMはナシ、報道陣すら近寄ることを許されません(写真撮影も不可)。
試験に供されている車両スバルXV2019モデルは、外国人選手には右ハンドル車、日本人選手には左ハンドル車が与えられ、ここでも公正が期されています。
続く試験は「実車故障診断競技」です。これはさましく「いじわる問題」。擬似的に故障させた状態にしてある車両を、エンジンが掛かるまで復帰させるという試験内容ですが、そこは世界大会です。そう簡単に故障箇所が見つからないよう隠されています。
車両は、プッシュスイッチを押してもイグニッションONにならずスターターモーターも回らない、エンジンは瞬間は掛かるもののアイドリングが続かない、そして各種警告灯が点灯しているという三重苦状態。
まずはボディへしっかりと養生したのち、各選手は診断機「SSM4」(スバル・セレクト・モニター)を用いてまずは故障原因を特定していきます。診断機は世界共通のようで、慣れた感じで作業が進むのですが、各選手ともすぐには原因にたどり着くことができません。
制限時間60分があっという間に過ぎていきます。そして、無事エンジンが掛かるブースがぽつぽつと現れていきます。もちろん選手とは面識はありませんが、心の中で応援している自分がいました。
先ほどの試験と同様、ファンファーレにより終了。試験中は、開始時とこの終了時だけがエンタメです。
この試験は最大で140ポイント。タイムレース点もあるので、早く完了した選手が有利になります。
そしていよいよ、結果発表です。優勝は、300ポイント満点のところ、260ポイントを獲得した中国YIWU SHIDAI SUBARU AUTO SALES LTD.に勤務するチェン・シャンドン選手でした。経験6年の若手です。2位はスイスのレト・シューマン選手、3位はロシアのバシリィ・ノヴィコフ選手でした。
いかにふだんからサービスマニュアルを読み込んでいるかが、故障を突き止める速さにつながり勝敗を分けたようです。
(畑澤清志)