日本初! タクシーの配車申し込みが自宅のテレビで可能になる

■下田駅を中心とするオン・デマンド・タクシーで12月からMaaS実証実験

スマホ・アプリによるタクシー配車は、ここ数年でわりと一般的になった。ただ、それが誰にでも使えるストレス・フリーな仕組みかといえば、そうとは言い切れない。電子端末が入口になる先端サービスは、そもそも日常生活で必要としなかった高齢者には必要性が感じられない。MaaS(=Mobility as a service)はその典型例だったがーー。

●スマホが使えないなら、テレビを使えばいいじゃない

全国19か所で展開されている日本のMaaS実証実験は移動革命とも言われ、その成立が急がれている。中でも東急、JR東日本、ジェイアール東日本企画が共同で運営する静岡県伊豆半島の第二弾(12月1日~3月10日)は、電子端末を使わない人たちの解決方法を示した点で日本初、たぶん世界でも初めての実験となる。ありそうでなかった「テレビ」を使った配車である。

仮想停留所
テレビかスマホで呼ぶから仮想停留所に時刻表はない。仮想停留所の表示が地面にあるだけだ。

MaaS実証にはさまざまな形態がある。伊豆で始まったMaaS実証は出発地から目的地までの行き方を、飛行機からシェア・サイクルまで、世の中にあるほとんどすべての交通モードを結んで、その人だけの移動をスマホ上で案内するのが最終目的だ。それに加えて交通費、観光地の入場料、宿泊費までキャッシュレス決済できるすべての移動のプラットフォームを目指している。

日本を目指す海外在住者でも使える壮大な仕組みだが、一方でその目的の中にはマイカー運転のできなくなった高齢者の移動を確保する、という地域課題の解決も含まれている。ところが、第一弾(4月1日~6月30日)の実証実験で浮上した重大な課題が、これだった。実験主体の1つ東急都市交通戦略企画グループ課長の森田創の弁だ。

「我々、この数か月、スマホを使ってもらうことに注力してきたのですが、とても(使用の)格差が大きい。さらにスマホにアプリケーションをダウンロードしてもらうことについては、もっとハードルが高いことがわかった。利用者相談の大半がダウンロードの方法で、そこでつまずいてしまう」

森田創課長
東急都市交通戦略企画グループ・森田創課長。

観光目的の訪日外国人でも、地域に住んでいる人も、実は移動の不安はほとんど同じだ。飛行機や新幹線などの主要交通で不安を感じる人は少なく、目的地周辺に近づいた時のラスト・ワンマイルをどうするかで迷う。そこで伊豆半島の先端「下田駅」を中心にワゴン車を使って、オンデマンドで乗り合いタクシーを用意した。実証のためエリアは限定したが、地域住民にとっては、バスに代わる生活の足になる。観光客にとっては空き時間が有効に使える。

オンデマンドタクシー
下田駅の周囲、市役所、県庁ほか観光スポットを結ぶオンデマンド・タクシー。

●ケーブルテレビの技術で

オンデマンド・タクシーは下田駅を中心とする一定エリアを時刻表なしで常時2台走っている。エリア内には県庁、市役所、メディカルセンターなど地域密着型の停留所と、道の駅、ホテル、遊覧船乗り場など観光スポット型など停留所の合計27か所設定されている。

テレビによる配車申し込みでは、リモコンでカーソルを動かして停留所を選択。何時に来てもらうかもカーソルを動かして入力するだけで申し込みが完了する。受付はは人に代わってAIが希望時間に最も早く到着する車両にモニター表示で指示する。乗客は自宅で待つだけだが、その先にも工夫がある。

配車予約画面
配車予約画面。天気予報も同時に見ながら身支度ができる。

協力者として登場したのは東急沿線で展開するケーブルテレビ「イッツコム」だ。「テレビ・プッシュ」サービスを応用した。

「この予約システムは、テレビのプッシュ機能を拡充してデマンド交通の予約を組み込んだものです。プッシュ機能とは緊急地震速報や気象災害情報など緊急度の高い情報を、テレビの電源が自動的にオンになり知らせる機能で、番組視聴中でも自動的に切り替わって知らせます。だから、配車予約でも乗車時間が近づくと同じように利用者に知らせるので、乗り忘れが起こりにくいのです」(イッツコム開発担当者)

配車時間
配車時間が近づくとテレビがオフでも、自動的に立ち上がって画面で知らせてくれるプッシュ型。

同社は、この機能で防災安全協会の防災製品大賞金賞を受賞していた。さらに、予約画面ではこんな工夫もされている。
「画面を見ながら操作を音声で案内する初めての試みです。機会音声は聞き取りにくいので、約300パターンの言葉を実際にアナウンサーに読んでもらい、画面にあった案内で入力をやりやすくしました」(前同)

メニュー
停留所の名前がわからなくても選びやすいメニュー。音声案内で入力を案内する。ただ、残念ながら自宅に戻るときは、タブレット端末で配車予約することになる。

このテレビ予約は12月1日から開始される。下田市など行政機関を通じて約10人を選定中だ。プッシュ機能を使うためのアダプターを無料で貸し出し、観光客と同じ1日400円の乗り放題の運賃で検証する。

第二弾の実証では、第一弾で不評だったアプリケーションをやめて、QRコードを読み込めばすぐに使えるウェブ上からの申し込みに切り替えた。それでも高齢の地域住民にオンデマンド・タクシーは敷居が高い。

「最終的にはスマホを使ってほしい。でも、伊豆の利便性を追求して地域の課題を解決することはできない。入口のハードルを下げれば、すぐにでもアクティブ・ユーザーになってくれる可能性がある」(前同・森田課長)

それにしても鉄道会社とケーブルテレビ会社が、クルマの配車システムを手掛けるというのはかつてない。移動革命は、こんなところからも始まっている。

(中島みなみ)