ヤリスの走りに刻まれた、WRCからのフィードバックとは?【試乗】

●ヤリスに乗って感じた、直近8年でのトヨタの変化

トヨタ車は変わりましたねー。

来年2月に発売されるトヨタのコンパクトカー「ヤリス」のプロトタイプに試乗して感じたのは、まずそこですよ。

だって最近のトヨタの乗用車ってどれも操縦安定性のレベルが高い。クラウンだってRAV4だって、そしてカローラだってとっても走りがいいわけです。新型車が出たときは、乗る前から「トヨタのことだからそれなりにしっかり走るはず」と思えるくらいですから。そんな予測ができるようになったのは、いつ頃からでしょうかね。

ヤリスのどこがすごいのか?

それはもう、なんといっても自然なハンドリング特性に尽きます。今回の試乗の舞台はミニサーキットで、公道よりも速度領域がずっと高いからサスペンションがヤワなクルマだと曲がるときに大きくロールし、しかもロールの変化が急すぎて乗っている人も運転操作も落ち着かないんですよね。

今どきそんなクルマないだろう……って?

実はあるんですよ、コンパクトカーにも何台かは。でもヤリスは全然違う。曲がり始めから旋回中、そして直進への復帰まで挙動が一貫して安定。ロールが急に変化するなど不自然じゃないから、とにかく運転しやすいんです。しかも、そのレベルが素晴らしい。

コーナリングの舵の効きが正確

それでいて、路面を捉えるタイヤの動きが乱れないからとにかく舵が正確。ハンドルを切っただけ過不足なく素直に曲がるから、コーナリングは狙ったラインをしっかりトレースしてくれることに感動しました。

その秘密は車体とサスペンションの作り方にあるようで、開発者によると「車体はがっちり硬め、サスペンションはしなやかに動かすという基本を忠実に作りました」とのこと。

ヤリスのカットボディ。青い部分が強化箇所

資料を見ると環状構造と呼ぶ、頑丈な補強材を“ロの字状”に結んでガッチリと固める手法をエンジンと室内の隔壁、フロントドア開口部、そしてテールゲート周辺に採用。いずれも「トヨタコンパクトカー初」なのだそうです。その結果としてボディはクラストップレベルの高剛性で、ねじり剛性は従来比30%向上しているそうですよ。

ちなみにヤリスはWRC(世界ラリー選手権)でも活躍するクルマですが、「車体やサスペンションの構造はその参戦による知見を市販車へフィードバック」なのだとか。戦う現場からは、車体剛性をあげることなどが求められたそうです。秘密はそこにありましたか。

もうきっと時効だから告白すると、ヤリスの前身である「ヴィッツ」の先代がデビューした時には「トヨタっぽい走りだよね」とあんまりポジティブじゃない意味で思ったわけです。それがわずか8年前のこと。

その後はヴィッツも、マイナーチェンジのたびに走行性能が磨かれました。そして、ヤリスでは一気にジャンプアップ。そう考えると、この8年間でのトヨタのクルマ作りの変化ってとっても大き変わりましたね。ヤリスのプロトタイプに乗ってみて、そんなことを感じたわけです。

ボディは力強さが凝縮されたデザイン

それにしても、剛性の高い車体ってやっぱり大切なんですね。

(工藤貴宏)

この記事の著者

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工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジンのマツダCX-5。
AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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