【自動車用語辞典:潤滑系「クランクシャフトの潤滑」】パワーを取り出す重要部品を滑らかに動かす仕組み

■オイルの粘性でクランクシャフトを持ち上げて潤滑する

●エンジンで一番大きな運動部品

燃焼によるピストンの往復運動を、コンロッドを介して回転動力として取り出すのがクランクシャフトです。爆発エネルギーを受けながら高速回転するので、クランクシャフトを支えるクランクジャーナルやクランクピンには大きな負荷がかかります。

円滑な回転と耐久信頼性を実現するためのクランクシャフトの潤滑について、解説していきます。

●クランクシャフトの構成

クランクシャフトは、コンロッドを介してピストンの往復運動を回転運動に変換して出力を取り出します。回転部品として最大であり、大きな負荷を受けながら高速回転するので、強度や剛性に優れた構造と材質が要求されます。材質としては、硬く摩耗に強い高炭素鋼やクロムモリブデンなどの特殊鋼、特殊鋳鉄などが用いられます。

シリンダーブロックに支持されるクランクジャーナル、コンロッドの大端部と連結するクランクピン、クランクジャーナルとクランクピンを繋ぐクランクアーム、重量バランスを補正するバランスウェイトで構成されています。

●クランクジャーナルの潤滑

クランクシャフトのジャーナル部は、プレーン(滑り軸受け)タイプのベアリングを用いています。メインベアリングは、半月状の上下2枚でシャフトを挟み込み、ベアリングキャップで締め付けることによってシリンダーブロックに固定します。

メインベアリングは、クランクシャフトの支持とクランクジャーナル部へのオイル供給という重要な役割を担っています。

シリンダーブロックのメインギャラリーから圧送されたオイルは、メインベアリングのオイル穴から内側に入り込み、さらに内側に設けられたオイル溝に充填されます。

コンロッド大端部との接合部のクランクピンについても、同様に2枚のプレーンタイプのベアリングで潤滑しています。クランクピンへのオイルは、クランクシャフトの内部に設けたクランクジャーナルとクランクピンをつなぐ油路を介して供給されます。

クランクシャフトと油穴
クランクシャフトと油穴
ジャーナルベアリング
ジャーナルベアリング

●クランクジャーナルの潤滑メカニズム

オイルには粘性があるので、クランクシャフトの回転によってより狭い隙間に侵入しようとします。これが、シャフトを押し上げる力となり「流体潤滑」が成立します。油膜の厚みはミクロン単位ですが、クランクシャフトは油膜の上で回転するので、ベアリング部の摩擦と摩耗は大きく軽減します。

ちょうど雨の日に発生するタイヤの「ハイドロプレーン現象」と同様ですが、こちらは危険な現象です。

エンジン停止時は、油圧がないのでクランクシャフトは「金属接触」しています。エンジンを始動してから十分な油圧と油膜が確保されるまでの間は、ジャーナル部にとっては厳しい状況です。粘度の低い冷態時には、始動直後の急加速などはジャーナル部を傷めることになるので避けた方が良いです。

クランクシャフトと油膜
クランクシャフトと油膜

●ハイドロプレーン現象とは

ハイドロプレーン現象とは、雨の日の高速走行で発生しやすい危険な現象です。

水溜りのある路面を低速で走行する場合、路面の水はトレッド(溝)パターンによって上手く後方に排出されます。しかし、高速では水の排出が間に合わなくなり、タイヤと路面の間に水膜が発生します。水膜によって、タイヤの摩擦力が消失しクルマが制御不能になります。

ハイドロプレーン現象
タイヤと路面の間に発生するハイドロプレーン現象は危険な現象だが、クランクシャフトの潤滑と原理は同じ

クランクシャフトは、運動部品の中ではもっとも大きな部品です。大きな力を受けながら高速回転するので、高い強度や剛性が必要です。

そのクランクシャフトを支えながら耐久信頼性を確保するのは、ベアリング部の潤滑の重要な役目です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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