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■ドイツの商用EVメーカーと車両を共同開発!
ネットショッピングの配送で、筆者もお世話になりまくりのヤマト運輸さん。同社が意欲的な試みに乗り出しました。「ラストワンマイル」と呼ばれる荷物配送の最終区間(営業所からエンドユーザーの間)に、独自開発した小型EVトラックを導入するそうです。
物流業界がいま大変な変革期にあることは、皆さんもご存じかと思います。人材確保のための働き方改革に加えて、輸送区間のCO2削減にも取り組まねばなりません。ヤマト運輸の抱える運送車両はおよそ4万台。そのクルマたちが1日に走る距離はなんと200万km! 24時間で地球50周分も走ってしまうのですから、その車両の一部でもEVに置き換える効果はものすごいものになりますよね。
今回導入した小型EVトラックは、ドイツの郵便・物流大手であるドイチェポストの子会社、ストリートスクーター社の「Work L」というモデルに独自の変更を加えたもの。ヤマト運輸といえば、トヨタと共同開発したウォークスルーバン「クイックデリバリー」が思い浮かびますが、今回は海外に完成度の高いベース車両があったため、それを採用することになったようです。
●ドライバーの負担軽減の工夫が満載
早速車両を見てみましょう。全長は4.7m、全幅は1.83m、全高は2.25m。大型ミニバンよりも小さくて、普通免許で運転できます。この「普通免許で運転できる」という点は重要で、ヤマト運輸としては女性など、より多くの方(ヤマトでは「アンカーキャスト」と呼びます)に運転してもらうことを想定したとのこと。シャシーはフォルクスワーゲンの商用車キャディのものを流用しており、前輪駆動となります。
バッテリーはリチウムイオンで容量は40kWh。最大走行距離はおよそ100kmですが、都市部のヤマト集配車の平均走行距離は1日40kmとのことなので無問題。充電方式はあえての普通充電。集配車は夜まったく動かないので、その間に充電すれば(満充電まで6時間)、高額な急速充電器が不要になるというわけです。
ヤマト運輸こだわりの装備をみてみましょう。運転席は右ハンドルで、1日平均200回乗り降りするというドライバーの負担軽減が最優先に考えられています。シート高を低めに抑えたうえで、シート・ドア側の腿のサポートをフラットにして乗降性を向上。さらにはシートヒーターとエアコン(ドイツではエアコンレス!)も装備しました。
運転席と助手席の間には、「Yamato Edition」という誇らしいプレートも発見!
シフトレバーはD、N、Rしかない小さなもので、指一本で軽く操作が可能。Dレンジのままキーを持ったドライバーがクルマから離れると自動でパーキングブレーキがかかる仕組みで、ブレーキのかけ忘れを防ぎます。ドアの施錠・開錠もこのセンサーにより自動で行えるとのこと。
●2030年までに5000台を導入
都市部では役立ちそうと思ったのがマルチビューモニター。車両を真上から見下ろしたバードビューに加えて、Dレンジでは前方、Rレンジでは後方、ウィンカー使用時には左右のドアミラーの死角をモニターで確認できます。Uターンやバックも多い配送トラックですから、周囲の状況が把握できるのはありがたいですよね。
このほか、走行時には「ミュウゥゥゥ」というモーター音が強調されるようになっており、EVで話題になる「走行音が静かすぎる問題」にも対策がなされています。
荷室にも工夫が満載です。床面高を90cmに設定して、ドライバーが腰を曲げずに荷物を扱えるように配慮。さらに後ろと左右、3方向にトビラを設けることで、ドライバーが荷室に乗り込まなくても、すべての荷物にアクセスすることができます。130cmという荷室の高さはゴルフバッグを立てて運ぶためのもの。冷凍・冷蔵エリアも備えた荷室は、日本のトプレック製でした。
ヤマト運輸では、2020年1月から1都3県でこの小型EVトラックを稼働開始するとのこと。初期導入は500台ですが、同社は今後も次世代モビリティの開発・導入を進め、2030年までに小型集配車の半数にあたる5000台を置き換えるそうです(ちなみに今回導入した500台のCO2削減効果は年間3500トンとのこと)。
見慣れた宅配トラックですが、この車両が普及すれば、町の風景が少し変わるかもしれませんね。
(文と写真:角田伸幸)