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■燃料の蒸発ガスは世界的な規制の対象
●活性炭キャニスターによる対策が主流
未燃燃料に由来する炭化水素(HC)や燃焼で生成するHCは、排気管から排出されるだけでなく、燃料タンクや燃料ホースなどからも蒸発ガスとして放出され、排出ガスの規制対象となっています。
ガソリン車から放出される燃料蒸発ガスの発生要因と抑制方法などについて、解説していきます。
●燃料蒸発ガス(エバポ)とは
ガソリン車では、排気管から放出される排出ガス中のHCだけでなく、燃料タンクや燃料ホースなどから燃料の蒸発ガスHC(エバポ)が放出されます。
燃料蒸発ガスは走行中だけでなく、駐車時や給油時にも排出され、その主成分HCは光化学オキシダントやPM2.5の原因物質です。したがって、国内外において厳しい燃料蒸発ガス規制(エバポ規制)が施行されています。
●燃料蒸発ガスの発生要因
燃料蒸発ガスには、主に3つの発生要因があります。
・透過
燃料ホースやその接続部、燃料タンクのようなゴムや樹脂などの微小な孔を通じてガス成分が放出する現象です。
・波過
蒸発ガスの排出抑制装置である活性炭キャニスター(後述)がオーバーフローして蒸発ガスが放出する現象です。
・給油時
給油時には、燃料タンクの給油口や給油ノズルとの隙間から、蒸発ガスが放出します。
透過は、ガソリン成分が透過しにくい材質を使用することである程度抑えられます。波過については、キャニスター容量の最適化やキャニスター制御の最適化が行われています。
最後の給油時の燃料蒸発ガスについては、米国では規制されていますが、欧州や日本ではまだ規制対象ではありません。しかし、最近日本でも問題視され始め、多くのガソリンスタンドに燃料蒸発ガス回収機能付き給油機が設置されるなど、規制化の動きが活発化しています。
●活性炭キャニスターの役割
燃料蒸発ガス対策としてほぼすべてのガソリン車が採用しているのが、活性炭キャニスターです。
活性炭キャニスターは、筒状の容器に詰めた活性炭でガソリン蒸気を吸着して一定量溜まると、エンジンの吸気管に投入して再燃焼する装置です。
キャニスターには、ガソリン蒸気を回収する配管と、エンジンの吸気系に送り込む配管、外気を取り入れる配管が繋がっています。エンジンの吸気管と繋がっている配管には、蒸発ガスのパージ量を制御する電磁弁が装着されています。
エンジン駆動時には吸気管に負圧が発生するので、活性炭に吸着していた蒸発ガスは外気から吸入される新気によって分離され、エンジンの吸気管に供給されて燃焼します。同時にキャニスター内には、新気が充満して次の吸着を始めます。
●燃料蒸発ガス規制の現況
米国が先行して、日本は追従する形で燃料蒸発ガス規制を強化しています。ただし、米国が規制している給油時の燃料蒸発ガスについては規制対象にしておらず、現在その必要性が議論されています。
燃料蒸発ガスの発生は、走行時と停止直後、駐車時、給油時に分類されます。
日本での計測は、停車直後と駐車場での長時間放置を想定した2つの試験「暖気放置時排出試験」と「終日保管時排出試験」を、「SHED(Sealed Housing for Evaporative)」という専用の試験設備で実施します。
●SHEDとは
SHEDは、クルマ全体から放出される燃料蒸発ガス量を計測する密閉室です。試験走行直後の車をSHEDに入れ、室温を試験法に従って変化(20~35℃)させて、クルマ全体から放出される燃料蒸発ガス量、すなわち試験室内に溜まったHC重量を計測します。
燃料噴射システムとは直接関係ありませんが、燃料系に係るテーマということで取り上げました。
室内がガソリン臭いと感じたら、キャニスターなどの燃料ガス蒸発抑制装置周辺の漏れを疑ってみてください。
(Mr.ソラン)