【自動車用語辞典:燃焼噴射系「コモンレール」】複雑な噴射制御を可能にしたディーゼルエンジンの革命児

■超高圧かつ多段階の噴射が可能に

●高いコストが普及の妨げに

コモンレール噴射システムの出現によって、ディーゼルエンジンは大きく進化しました。噴射圧の高圧化とともに、多段噴射によって燃焼を自在に制御できることが、最大のメリットです。

噴射の自由度が高いコモンレール噴射システムの構成やメリットについて、解説していきます。

●ディーゼル噴射システムの歴史

ディーゼルエンジンは、コモンレール噴射システムになる以前は、分配型燃料ポンプ式の噴射システムを主に採用していました。分配型燃料ポンプは、回転するカムでプランジャーを作動させて高圧を発生させる燃料ポンプです。

この分配型ポンプに、燃料圧力によって弁開閉を行う自動噴射弁を組み合わせて、燃料をシリンダー内に噴射していました。

1995年に、噴射自由度の高い電子制御のコモンレール噴射システムが実用化されました。高圧噴射や1回の燃焼行程中に噴射を複数回分割する多段(マルチ)噴射など、高精度に燃料噴射が制御できるため、排出ガス規制の強化とともに急速に普及しました。

●コモンレール噴射システムの構成

コモンレール噴射システムは、ガソリンの噴射システムと同様、あらかじめ高圧の燃料をコモンレール(デリバリーパイプ)に蓄えておき、電磁タイプの高圧噴射弁で燃料を噴射します。

燃料(軽油)は、燃料タンクから高圧ポンプに内蔵されたフィードポンプで吸い上げられ、高圧(サプライ)ポンプで昇圧されます。コモンレールに圧送された燃料は、圧力コントロールバルブによって既定の圧力に調整されます。
高圧ポンプは、プランジャーの往復運動により、燃料を吸入・圧送しますが、本体はベルトやチェーンを介してエンジンで駆動します。

高圧噴射弁は、ソレノイドコイルのON/OFFでコマンドピストンを作動させることで、噴射弁を開閉します。燃料の微粒化と分散性のため6~8個程度の多噴孔ノズルを使い、噴射圧は最高で200MPaを超える仕様もあります。

●ピエゾ式噴射弁

コモンレール噴射システムの噴射弁としては、ソレノイドタイプが一般的ですが、高級ディーゼル車の一部では応答性の高いピエゾタイプの噴射弁を採用しています。

ピエゾ噴射弁は、電圧をかけると伸張するピエゾ素子を弁開閉のアクチュエーターとして使用します。コストは高いですが、応答性に優れ、より精度高く噴射量と噴射時期を制御できます。

コモンレール噴射システム
コモンレール噴射システムの仕組み

●コモンレール噴射システムの何が良い?

コモンレール噴射システムによって、燃料噴射の噴射量や圧力、噴射時期、噴射回数を自在に制御できるようになりました。特に、1回の燃焼行程中に噴射を複数回に分割する多段(マルチ)噴射によって、ディーゼルエンジンの課題であった排出ガスと燃焼音を同時に低減できるようになりました。

噴射パターンは、運転条件に応じてエンジン回転数と負荷(噴射量)によって使い分けます。典型的な多段噴射は、主噴射の前のパイロット噴射とプレ噴射、主噴射の後のアフター噴射とポスト噴射の計5回噴射です。

高圧噴射弁
高圧噴射弁の構造
多段噴射の例
多段噴射の例

ディーゼル乗用車の排出ガス規制は、2000年以降段階的に強化され、コモンレール噴射システムも高圧化と高応答性を目指して、進化し続けています。

一方、コストは後処理システムも加えて上昇傾向にあり、ガソリンエンジンに対して大きなデメリットとなっています。これが、ディーゼル車普及の足かせとなっており、特に日本では現在も普及の兆しは見えてきません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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