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■超高圧による燃料の微粒化と多段噴射が特徴
●ガソリンエンジンの制御と比べると圧倒的に複雑
圧縮着火燃焼のディーゼルエンジンでは、高圧の燃料噴霧を複数回に分割して噴射するコモンレール噴射システムが燃焼を制御し、出力の向上と燃費、排出ガスの低減を実現しています。
ディーゼル技術の進化を牽引するコモンレール噴射の機能と制御について、解説していきます。
●コモンレール噴射システムの概要
コモンレール噴射システムが実用化されて20年が経ちますが、この間ディーゼルエンジン技術は大きく進化し、出力や燃費、排出ガス性能は飛躍的に向上しました。
最大の特徴は、超高圧で微粒化に優れた燃料を噴射できること、高精度な多段(マルチ)噴射ができるなどの噴射の自由度の高さです。
燃料は高圧ポンプで加圧してコモンレールに蓄え、ソレノイド噴射弁やピエゾ(圧電素子)噴射弁で燃焼室内に噴射します。最大噴射圧は160~250MPaと高く、多段噴射によって燃焼を制御して、燃費と排出ガスを低減します。
●ピエゾ噴射弁
コモンレール噴射システムの噴射弁としては、ソレノイドタイプが一般的ですが、高級ディーゼル車の一部では応答性の高いピエゾタイプの噴射弁を使っています。
ピエゾ噴射弁は、電圧をかけると伸張するピエゾ素子を弁開閉のアクチュエーターとして使用しています。コストは高いですが、応答性に優れ、より精度高く噴射量と噴射時期を制御できます。
●コモンレール噴射の基本制御
ガソリンエンジンの出力は吸入空気量に依存しますが、ディーゼルエンジンの出力は噴射量に依存します。
ベースとなる噴射量は、エンジン回転数とアクセル開度で決まり、ECUにあらかじめ噴射量マップとしてプログラムされています。噴射時期と噴射圧力は、エンジン回転数と噴射量を入力パラメーターとするマップから求めます。
ディーゼルエンジンには点火制御は不要ですが、運転条件によってさまざまな噴射パターンを使い分ける制御が必要です。その分制御パラメーターが増えるため、ガソリンエンジンの制御に比べると圧倒的に複雑でECUの容量を必要とします。
●多段(マルチ)噴射の制御
コモンレール噴射システムの特徴である噴射パターンは、運転条件に応じたエンジン回転数と負荷(噴射量)によって使い分けます。噴射パターンは、最大で4~6回程度分割する多段噴射が一般的ですが、それぞれの噴射時期や噴射期間などを緻密に制御する必要があります。
典型的な多段噴射は、主噴射の前のパイロット噴射とプレ噴射、主噴射の後のアフター噴射とポスト噴射の計5回噴射です。
分割された噴射には、それぞれ役割があります。
主噴射の前のパイロット噴射とプレ噴射は、急激な燃焼を抑えることでNOxと騒音を低減します。主噴射の直後のアフター噴射は、再燃焼によってPM(Particulate Matter:粒子状物質)を低減します。またポスト噴射は、排出ガス温度を上昇させ、DPF内にトラップされたPMの再生制御(堆積したPMを定期的に燃焼させて除去)のためや、NOx触媒のための還元成分HCを供給するといった後処理制御のために活用します。
ディーゼルエンジンの制御は、噴射に関わる制御パラメーターが多いため、ガソリンエンジンに比べて圧倒的に複雑です。そのため、従来は制御パラメーターの最適化に多くの時間と工数を費やしていました。
最近は、シミュレーションを活用したモデルベース開発(MBD)や制御パラメーターを最適化するためのキャリブレーションツールが開発され、比較的短時間で高精度な制御ができるようになっています。
(Mr.ソラン)