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■Cd値、CL値、全面投影面積が3大要因
●空力的に優れたスタイルは居住性と相反しがち
クルマのデザインは、見た目のカッコ良さだけでなく、空力的に優れたスタイルであることが重要です。空気抵抗が大きければ、エンジン出力が十分に生かせず走行性能も燃費性能も悪化します。
ボディの形状と空力的な要素について、解説していきます。
●空気抵抗とは
クルマの空気抵抗とは、クルマが走行するときに進行を妨げるような逆向きの空気の抵抗で、ボディ表面の空気との摩擦によって発生し、以下の式で表されます。
空気抵抗 = 1/2 x Cd × (空気密度) × (前面投影面積) × (車速)2
Cd(空気抵抗係数)と前面投影面積については、あとで詳しく説明しますが、いずれもクルマのスタイルやサイズに大きく影響されます。簡単に言えば、空気抵抗を小さくするためには、ボディ形状をコンパクトにして空気の流れをスムーズにすることが重要です。
また、空気抵抗が車速の二乗に比例することから、高速になればなるほど空気抵抗が大きくなります。高速性能や高速燃費に空気抵抗が大きく影響することを意味します。
●空気抵抗係数Cd
Cdは、走行しているクルマを逆方向に戻そうとする力の指標で、車体に沿った空気の流れやすさを示し、数値が小さいほど空気抵抗は小さくなります。
クルマが走行すると、車体前面に衝突した空気はクルマの外周に沿って流れ、車体後部では渦が発生します。渦が発生する車体後部は負圧状態になり、一方空気が衝突する車体前面は圧力が高くなるので、車体には後ろに引っ張られる空気抵抗が発生します。
Cd値を小さくするには、流れをスムーズにする流線型のボディ形状が効果的です。実際には、乗員スペース、居住性を確保する必要があるので、流星型ボディという訳にはいきません。
●Cd値の例
飛行機の翼のCd値は0.1程度、立て板が1.25で、最近のCd値の低い乗用車は0.25~0.3、背の高いSUVやワンボックスカーは0.3~0.4程度です。ちなみに、プリウスは0.25です。
●前面投影面積
前面投影面積は、クルマを前から見たときの面積を表します。当然、面積が小さいほど空気抵抗は小さくなります。Cd値が同じでも投影面積が大きければ、その分走行性能や燃費性能は劣ってしまいます。
別の見方をすると、前面投影面積が大きいからただ単に良くないということではなく、乗員スペースの大小を表しているとも言えます。すなわち、前面投影面積はクルマの性格や用途の指標であると考えることができます。
●風洞試験
Cdのような空力特性の評価は、風洞試験で行います。風洞試験装置とは、クルマを固定して空気を流すことで、走行中の空気の流れを解析する装置です。ボディ周辺の流れを可視化する場合は、トレーサーとして煙を空気とともに流して、煙の流れ方で車体周りの空気の流れを解析します。最近は、タイヤも回転させるムービングベルト方式が一般的です。
●揚力係数CL
Cdを限りなく小さくすると、飛行機の翼のような形状になりますが、こうなると飛行機のようにクルマを持ち上げる力、揚力が発生します。この特性を表す数値を揚力係数CLで表します。高速になると、ボディ上部を流れる空気の速度が下部よりも速くなり、圧力が下がることによって、揚力が発生します。
揚力が発生すると、タイヤの接地力が低下し、操縦安定性や直進安定性が悪化します。レーシングカーやスポーツ車ではCdを低減しながら、一方で揚力を抑制するエアロパーツであるリアスポイラーやエアダムスカートを装着しています。
高速燃費を改善するために、Cdの小さいボディ形状を検討することは常套手段ですが、相反するのは乗員の車内スペースです。
限られたサイズの中で居住空間を確保しながら、空力特性の優れた魅力的なスタイルを実現することが、ボディ形状に求められています。
(Mr.ソラン)