【自動車用語辞典:サスペンション「サスペンション特性と車体挙動」】サスペンションの動きによってクルマの挙動が変わる

■ローリングやピッチング、ヨーイングなどが生じる

●X、Y、Zという3つの軸に分けて理解しよう

走行中のクルマは、サスペンションのスプリングを介して4本のタイヤでボディを支えています。旋回時や加速・制動時には、サスペンションの伸縮やタイヤの特性によって、車体にはさまざまな方向の力が働き、揺れが発生します。

サスペンションの特性と車体の挙動について、解説していきます。

●クルマの挙動

旋回時や加速・制動時のクルマは、クルマの前後(X)軸方向とクルマの左右(Y)軸方向、クルマの上下(Z)軸方向に力が加わり、揺さぶられます。

クルマにかかる重力や慣性力によって、その方向は決まり、サスペンションの仕様やホイールアライメントによってその大きさが決まります。

例えば、乗り心地を良くするために柔らかいスプリングを設定すると、旋回中のローリングや加減速時のピッチングが大きくなり、操縦安定性が悪化します。逆にスプリングを固くすると、乗り心地が悪くなります。

ローリング
クルマの前後(X)軸を中心に回転する動きです。旋回時に、遠心力によって外側のタイヤが浮き上がり、内側のタイヤが沈み込むような動き、また路面の凹凸によって同じような動きが発生します。

旋回中の遠心力による傾きに耐える力をロール剛性と呼びます。ロール剛性を高くする(車体の傾きを抑える)ためには、スプリングやショックアブソーバーを固くする、車体重心を低くするなどの方法がとられます。

ただし、乗り心地とタイヤのグリップ力を確保するためには、ある程度のローリングも必要で、バランスが重要です。

ピッチング
フロントとリアのスプリングの振動の位相が180°ずれた場合に、クルマの左右(Y)軸を中心に回転するような動きです。例えば、ブレーキを踏み込むと、車体が前のめりになり、ブレーキを離すと反動でリアが沈み込み、ちょうど前後方向にシーソーのように揺られます。

ローリングと同様、サスペンションを固くするとピッチングは抑えられますが、乗り心地は悪化します。

ヨーイング
クルマの重心を通る上下(Z)軸を中心に、コマのように回転する動きです。旋回時の操縦安定性と密接な関係があり、積極的にヨーイングを制御する必要があります。

滑りやすい路面では、ヨーイングが発生しやすく、ヨーコントロール制御や4WS制御を採用している例があります。

バウンシング
4輪のサスペンションのスプリングが同位相で振動することによって、車体が上下振動する動きです。大きく波打っている路面を高速で走行するとき、突起を乗り越えた後などに発生しやすいです。

車体をバネで支えている以上避けられない挙動ですが、ショックアブソーバーの減衰力を強めることである程度は抑えることができます。ただし、路面からの突き上げ感が目立ちやすくなるので、チューニングが必要です。

スクワット
急発進や急加速の時に、急激な駆動力によってリアのスプリングが沈み込み、フロントが浮き上がるような動きです。

ノーズダイブ
スクワットとは逆で、急ブレーキをかけた時に慣性力によってフロントが沈み込み、リアが浮き上がる動きです。


クルマは、走行中に条件によってさまざまな挙動を示します。これらは、クルマの重量や重心の高さ、重量の前後配分、ボディの構造や剛性、スプリングなどのサスペンションの仕様や設定によって、大きく変わってきます。

クルマの性格に合わせて、操縦安定性と乗り心地をバランスさせるチューニングが求められます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる