【自動車用語辞典:サスペンション「フロント編」】操舵やスペースの制約も考慮した前輪向けサスペンションとは?

■ストラット式を主流にダブルウィッシュボーンやマルチリンクも

●コスト面ではストラットが有利だが

フロントに配置されるサスペンションとしては、コストや重量面ではコンパクトなストラット方式が有利です。一方、性能を重視するならダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式が優れています。

フロント用サスペンションとして代表的な3つの方式の特徴とメリット・デメリットについて、解説していきます。

●フロント用サスペンション

フロント用のサスペンションには、衝撃吸収や路面追従性だけでなく、操舵という役割もあります。また、一般にエンジンとトランスミッションはフロントに搭載されるので、スペース的な制約もあります。

コストや重量面では、コンパクトなストラット方式が有利です。一方、乗り心地や操縦安定性など性能面からみれば、ダブルウィッシュボーン方式、その進化型のマルチリンク方式が優れています。

以上のことから、小型車のサスペンションとしてはストラット方式が主流であり、クルマのサイズや狙いによっては、特に高級車ではダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式が採用されています。

●ストラット方式

コイルスプリングとショックアブソーバーを同軸上に配置して、それ自体を懸架装置として車輪が取り付けられた構造です。上部をボディに下部をホイールのナックルに固定して、1本のロアアームで支えます。

1本のロアアームで車軸の位置を固定するので、重量車や高出力車には向きません。

シンプルな構造で軽量なので、市街地走行中心の小型車では十分な乗り心地が得られます。低コストのメリットもあり、乗用車特に小型車を中心にフロントサスペンションの主流となっています。

また重量がフロントに集中するFF車では、前後輪のバランスが取りやすいというメリットも大きいです。

●ダブルウィッシュボーン方式

アームの形が鳥の胸骨(ウィッシュボーン)に似ていることから、ネーミングされています。上側のアッパーアームと下側のロアアームの2本で構成されています。2本のアームがあるため、前後剛性や横剛性も強く、乗り心地を高めやすいです。

ジオメトリーの設定自由度が高いですが、その分構造が複雑になりコストも高くなります。

サスペンションの剛性を高めやすく、衝撃吸収と操縦安定性を両立しやすいことから、後述のマルチリンクとともに高級車のサスペンションの主流となっています。

●マルチリンク方式

リンクあるいはアームが合計3本以上で構成されます。上下のストロークに対するタイヤの向きの変化を理想的にしやすく、乗り心地と高速安定性、運動性能などを高次元にバランスさせることができます。

機能が高い分、複雑で部品が増えることになり、重量とコスト面では不利です。

メルセデスベンツ・Sクラスやアウディが、ダブルウィッシュボーンを進化させたマルチリンク方式を採用するなど、各メーカーはそれぞれいろいろなタイプのマルチリンクを高級車で採用しています。フロントにもリアにも使われています。


フロント用として普及しているストラット方式では、軽量かつ低コストという大きなメリットがあります。一方でステアリングの安定感と乗り心地、操縦安定性をバランスさせるためには、ある程度妥協しなければいけません。

妥協しづらい中・高級車では、相反する特性を両立させやすいダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式の採用例が増えています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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