【自動車用語辞典:運転支援と自動運転「自動運転に関わる法整備」】完全自動運転の前に立ちはだかる高いハードル

■急激な技術の進歩に法整備が追いついていない

●日本は2020年までにレベル3、2025年までに完全自動運転を目指している

現在多くのメーカーが市販化している自動運転は、レベル2(部分運転自動化)です。レベル2から、条件付きですべての操作をシステムが行う自動運転レベル3に進むためには、技術的な課題よりもむしろ現行法規が障壁となっています。

現行法規の課題と法整備の進行状況について、解説していきます。

●現行の法規と課題

自動車の走行に関する国際的な法規としては、「ウィーン道路交通条約」と「ジュネーブ道路交通条約」があります。ウィーン道路交通条約は、ジュネーブ道路交通条約を補完する目的で制定されました。

日本は、ジュネーブ道路交通条約に加盟し、国内の道路交通法などもこれに準じて規定しています。ウィーン道路交通条約の加盟国は、欧州諸国が中心で日米は加盟していません。

両条約の規定で注意すべきなのは以下の2点です。

・走行車両には、運転者がいること
・運転者は常に車両を適正に操縦しなければいけないこと

日本の道路交通法では、安全運転の義務として「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、運転しなければいけない」と規定しています。

これらの法規は、当面の目標である条件付き自動運転レベル3にとっては障壁であり、自動運転実現のためには規定内容を改正する必要があります。

●法整備の動き

法改正の強い要望を受け、欧州諸国中心のウィーン道路交通条約は、2016年3月に「システムが対応しきれなくなった場合は、即座にドライバーが運転を引き継げること」を条件に自動運転を認める改正を行いました。

これを受け、2017年ドイツは自動運転(レベル4まで)を容認する方向で国内法を変更しました。日本は、ウィーン道路交通条約に加盟してないので、ジュネーブ道路交通条約が改正されない限り、日本国内の関連法を改正できません。

ジュネーブ道路交通条約も、2015年に改正案が採択されましたが、加盟国の承認が得られず難航しています。

●日本の法整備の進捗

日本は、国連道路交通安全作業部会(WP1)メンバーとして、ジュネーブ道路交通条約の改正を進めています。また、国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)作業部会では共同議長という立場で、自動運転実行の障壁になっている国際基準「UN-R79」の解除/改定に向け推進中です。

UN-R79とは「舵取り装置に関わる国連の協定規則」で、車速10km/h以上での自動操舵(手放し運転)を禁止しています。

2017年10月に、国交省は自動運転車に関する安全基準を導入しました。高速道路などを自動走行する場合、ドライバーが15秒以上手放しすると警報を発し、その後50秒後には自動運転のシステムが停止、手動に切り替わるシステムの搭載を義務付けるというものです。2019年10月以降の自動運転機能を装備した新型車が対象(現行車は、2021年4月から適用)です。

●運転の責任がドライバーにあることを注意喚起

2016年に発生した日産・セレナ「プロパイロット」システムの衝突事故を受け、国交省はメーカーに対して、以下の注意喚起をドライバーに徹底するよう指示しました。

「現在実用化されている自動運転機能は、運転者が責任をもって安全運転を行うことを前提とした運転支援技術であり、運転者に代わってクルマが自律的に安全運転を行う、完全な自動運転ではありません」


日本政府は、2017年5月に国家戦略「官民ITS(高度道路交通システム)構想・ロードマップ2017」を発表しました。この中で2020年までに緊急時にドライバーが操作することを前提にした自動運転レベル3、2025年までにシステムがすべての操作を行う完全自動運転を実現するという目標を掲げています。

今は、急激な技術の進歩に法整備が追いついていない状況です。レベル3実現のためには、早急に国際的な法整備とルールづくりが必要です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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