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■燃費/CO2規制により再び脚光を浴びる
●普及にはさらなるブレークスルーが求められる
リーンバーン(希薄燃焼)は、1990年代に三菱GDI(ガソリン直噴エンジン)やトヨタ、日産によって市場投入されましたが、完成度が十分でなく10年程度で市場から消えました。
燃費/CO2規制の強化を背景に、直噴システムや要素技術の進化とともに再び注目され始めたリーンバーンについて、解説していきます。
●リーンバーンエンジンとは
エンジンに吸入される空気と投入される燃料の重量割合を空燃比と呼びます。燃料と空気(酸素)が過不足なく燃焼する理論空燃比は、約14.7です。
リーンバーンとは、空燃比が理論空燃比14.7よりも大きい、すなわち燃料が少ない(薄い)混合気の燃焼です。実際には、空燃比が約20以上の燃焼をリーンバーンと呼びます。逆に、空燃比が14.7よりも小さい、燃料が多い状態をリッチ混合気と呼びます。
リーンバーンが実現できれば燃費は良くなりますが、一方理論空燃比で機能する三元触媒ではNOxを十分に浄化できません。
●過去のリーンバーンエンジン
1996年、三菱がGDIリーンバーンエンジンを市場投入しました。GDIエンジンは量産初の直噴エンジンで、しかも燃費に優れたリーンバーンを採用した、当時としては画期的なエンジンでした。続いてトヨタや日産も、直噴リーンバーンエンジンを少量ですが、市場に投入しました。
GDIでは、燃料噴霧形状と球状のピストンキャビティ、タンブル流(縦渦)を組み合わせてリーンバーンを実現しました。これは成層燃焼方式と呼ばれ、着火を確実にするために点火プラグ付近だけリッチ(燃料を集中)にして、燃焼全体としてはリーンな混合気で安定燃焼を成立させる手法です。
当時のリーンバーンは、十分に完成された技術とは言えず、煤発生によるカーボンデポジット(堆積)やオイルの汚損、運転の仕方によっては燃費向上分が目減りするなどの問題がありました。さらに次期排出ガス規制に対してNOxの適合が困難であったため、10年程度で市場から消えていきました。
●リーンバーンによって燃費が向上する理由
リーンバーンによって燃費が向上するのは、以下の3つの理由からです。
・ポンプ損失の低減
リーンバーンでは、同一出力を得るための吸入空気量は増えます。したがって、スロットル開度が大きくなるため、ポンプ損失が低減します。
・冷却損失の低減
リーンバーンでは、相対的に燃料量が少ないため、燃焼速度が遅くなります。燃焼が緩慢になると、燃焼温度が低下し、燃焼室やシリンダー壁面から冷却水に奪われる冷却損失が低減します。
・比熱比の上昇
熱効率は、下記の通り圧縮比と比熱比で決まります。圧縮比と同様、比熱比が高いほど熱効率は向上します。
熱効率 = 1 – (1/ε)κ-1 ε:圧縮比 κ:比熱比
●比熱比を高めれば熱効率が上がる
比熱比は、定圧比熱(圧力一定での比熱)と定積比熱(体積一定での比熱)の比で表されます。空気の比熱比が1.4と最も高く、理論空燃比の混合気で1.26程度まで下がり、リーンバーンは混合気が薄い、空気に近づくので比熱比が上昇します。
上記の通り、比熱比が上昇すれば熱効率が向上します。
●今後のリーンバーンエンジン
かつての成層リーンバーンは、まだ当時の課題が完全に解決しているとは言い難く、採用するためにはブレークスルー技術が必要です。
現在リーンバーン実現のためのいくつかのコンセプトが提案されていますが、最も有望なのは、HCCI(予混合圧縮着火)ガソリンエンジンかもしれません。HCCIによって、部分負荷領域では、NOxがほとんど発生しないほどの超リーンバーン(空燃比で30以上)で運転でき、大幅な燃費向上が達成できる可能性があります。
多くの自動車メーカーは、2020~2025年に熱効率45%を実現するという目標を掲げています。実現のためのシナリオには、必ず空燃比30以上の超リーンバーンが取り上げられています。
ニューモデル「マツダ 3」でいち早くHCCIを実用化してきたマツダの技術も楽しみです。
(Mr.ソラン)