アウディのデザインはどこへ向かう? アウディ・デザイン部門を率いるマルク・リヒテ氏に聞いた

■アウディは一貫したアウディデザインの進化を重視

昨年9月にアウディは同社初のバッテリーEVであるe-tronの生産を開始。先日のジュネーブショーでは欧州初登場のe-tron GT Concept(昨年11月のLAショーでデビュー)、ブランニューのQ4 e-tron Conceptと、2台のバッテリーEVのコンセプトカーを並べた。

いよいよ近づいてきたEV時代に向けて、アウディのデザインはどんな方向に進もうとしているのか? ジュネーブのショー会場で、デザイン部門を率いるマルク・リヒテに取材する機会を得た。

「テスラなどとは違って、我々には内燃機関車もバッテリーEVもある」と前置きして、リヒテはこう続けた。「内燃機関車とバッテリーEVで多少とも違うデザインをやるとしても、我々にはアウディのデザイン言語がある。それを3〜4年ごとに進化させたいと考えている」。内燃機関車とバッテリーEVの差異化より、アウディとしての一貫したデザインの進化を重視するということのようだ。

リヒテは2014年にVWから移籍してアウディ・デザインのトップに就いた。「アウディに来て考えたのは、”クワトロ”を視覚化することだった」とリヒテ。14年のコンセプトカー、プロローグでブリスターフェンダーで4輪の存在感を強調するデザインを採用して以来、それをA8、A7、A6と量産車に展開してきた。

「”クワトロ”はアウディの大事なDNAだ。4つのホイールを視覚的に強調しながら、それまでのアウディの強みだった精緻さも表現した。次の段階として、シャープなラインは精緻さを表現する要素だが、それを減らしながら、ソフトでセクシーな曲面を組み合わせていく」とリヒテ。そして「e-tron GTとQ4 e-tronはそれを示している」。

e-tron GT Conceptは4ドア・スポーツカー。ブリスターの峰の下にグッと張り出したフェンダーフレアを見れば、「ソフトでセクシー」という意図がわかる。一方、Cセグメント級SUV のQ4 e-tron Conceptでは、フロントフェンダーからリヤフェンダーへの曲面の変化がそれを最も感じさせるところだろう。

「それぞれ独自のキャラクターを備えながら、全体のデザイン言語は共通であり、同じようなソフトさを持っている」とリヒテ。量産車ではA8から始まった現行車のデザイン言語を早くも進化させる必要性を、彼は次のように説明する。

「00年代初頭まで、アウディのデザインはとても成功していたと思う。しかしその後の10年間、デザイン言語の進化がなかった。成功しているからといって、デザイン言語を未来に向けて発展させる勇気を失ってはいけない。しかも今はすべてが急速に変化している時代だ。我々は勇気を持って、デザイン言語を進化させていく」。

インテリアも進化を図る。以前はインパネの中央に薄型ディスプレイを立てるデザインが多かったが、A8からディスプレイをインパネに組み込むようになった。「今はヘッドアップディスプレイに力を入れている」とリヒテは語り、「量産のQ4 e-tronでは拡張現実を備えたヘッドアップディスプレイを採用する」と続けた。

拡張現実とは実際の景色にデジタル表示を重ね合わせるもの。「例えば曲がる方向の矢印が、あたかもプロジェクターで道路上に投影されているように表示される。ヘッドアップディスプレイの表示エリアは従来の3倍の広さだ」。

Q4 e-tronは来年末までに量産型がデビューする予定だから、拡張現実を実装した世界初の量産車になるかもしれない。しかしリヒテはさらにその先も見据えている。

「将来的には大きなセンターディスプレイはなくなって、ヘッドアップディスプレイとボイスコントロールだけになるだろう。Q4 e-tronの拡張現実ヘッドアップディスプレイは、そこに向けたステップだ」

リヒテが語るように、少し前までのアウディは技術は進歩的でもデザインはコンサバティブという印象があった。しかし、もう違う。エネルギッシュで率直なリヒテの言葉を聞いて、そう実感した。

(千葉 匠)