【いままでのモータースポーツとは異なる楽しみ方がカギ!?】
いよいよ、オーストラリアでF1が開幕しましたね。同じタイミングで岡山ではSUPER GTの公式テストも行われ、2019年シーズンのモータースポーツが本格的に始まります。ファンにとってはワクワクする季節になりましたが、すでにチャンピオン争い真っただ中のシリーズもあるんです。
「電気のF1」とも言えるフォーミュラE(FE)は、去年の12月にサウジアラビアで「シーズン5」が開幕。モロッコ、チリ、メキシコを経て3月10日には香港で第5戦が行われました。中国でもう1戦が行われた後、ヨーロッパに移動し、7月にニューヨークで最終戦を迎えます。全13戦が行われる今シーズンのFEは、すでに折り返し地点に差し掛かっています。
2014年9月に北京で最初のレースが行われたこのシリーズ。当初は関係者やファンから、やや冷めた目で見られていたのは否定できませんが、次第に自動車メーカーの関心を集めるようになりました。現在では参戦11チーム中、6チームがメーカー直系のチームです。
アウディ、BMW、ジャガー、DS(プジョー・シトロエングループのプレミアムブランド)、インドのマヒンドラに加え、ニッサンも2015年のル・マン24時間以来のグローバルなモータースポーツへのワークス参戦を再開し、日本でも少しずつ知名度が高まっているのではないでしょうか。さらにメルセデスとポルシェも来シーズンからの参戦を正式に発表し、ますます注目のシリーズになりそうです。
FEのマシンは全てが同一規格の「ワンメイク」ですが、シーズン2からは電動パワートレイン(モーター、インバーター、トランスミッション)の独自開発が認められています。クルマの電動化が進む中、「電気のF1」を通したブランドイメージ構築というマーケティング的なメリットもありますが、世界的な自動車メーカーが相次いで参戦を決めたのは、このパワートレインの自由化によるところが大きそうです。
現代のモータースポーツはあまりにも技術レベルが複雑になり過ぎたため、市販車用技術へのフィードバックが限定的だと言われます。一方、FEで独自開発が可能なパワートレインには、一般のハイブリッド車や電気自動車と共通のテクノロジーやノウハウが活用されています。
ニッサンでは、電気自動車(EV)「リーフ」の開発にも携わった経験のあるエンジニアがFEのプロジェクトに携わっています。ワンメイクのバッテリーを使用し、最高出力も規定されているこのレースでは、限られたエネルギー(電気)を効率よくモーターに伝える、燃費ならぬ「電費」が勝敗を大きく左右します。
45分+1周においては、速く走るだけでなく勝負どころを見極めてエネルギーをセーブすることもかなり重要です。実際、レース途中で満充電のクルマに乗りかえていた昨シーズンまでと違い、1台のマシンでゴールまで走り切る今シーズン、トップを走りながら「電欠」で失速するマシンもありました。
その電費のカギを握るのがパワートレインに組み込まれるソフトウェア。FEのエンジニアによれば、高い電圧を使う市販EVで培った電気のコントロール技術(ソフトウェア)はFEにも活用できるとのことです。したがって、レースで得られたデータを量産車向け技術開発に生かすことも可能でしょう。
もう一つ、パワートレイン性能のカギを握るのが、バッテリーからの直流電気をモーター駆動に適する交流に変換するインバーターです。いわば、モーターにとってのインジェクションとも言える部品です。いかに少ない損失でバッテリーからのエネルギーを変換してモーターに渡すか、この効率も電費を左右します。
日本でもお馴染みのフェリペ・マッサやストフェル・バンドーンの使用するパワートレインを供給するドイツの部品サプライヤーZFは、新素材であるシリコンカーバイド(SiC)を使用しているそうです。電気抵抗が極端に低いSiCをインバーターに使用して変換ロスを少なくすることで、電費と走行可能距離の向上を図っています。コストと生産量の課題が解決できれば、この新素材も量産型のEVやハイブリッドに応用することは可能だそうです。
FEでは、実況中継中にラップタイムや順位などに加えて各ドライバーのバッテリー残量が「〇%」という形でテレビ画面に表示されます。ファンのみなさんは、順位やタイムと合わせて残りのエネルギー量にも注意しながら見ることで、ドライバーの戦略が見えてくるかもしれません。これまでのモータースポーツとは違う点の多いFEですが、FEならではの違った見方も色々ありそうです。
(Toru ISHIKAWA)