高級車ならではの先端運転支援機能を試す。アウディA8 55 TFSI クワトロ(後篇)【プレミアムカー定点観測試乗】

【多彩で全方位的な運転支援機能群】

アウディ・A8には、業界最先端の運転支援機能が軒並み盛り込まれています。それらは操舵や加減速をクルマに任せた自動運転の支援を行う「アダプティブドライブアシスト」、ドライバーに安全運転の助けとなる情報をもたらす「○○アシスト」群、そして実際に事故の危険を察知した場合に働く「アウディプレセンス」群に大別できます。

新型で世界の量産車として初めて搭載された、物体の形状まで明確に識別するというレーザースキャナーに加え、最大で22基におよぶレーダー、カメラ、超音波のセンサーにより周囲の状況を的確に捉えようというシステムです。欧州仕様に搭載される赤外線センサーの日本仕様への投入はいまのところ見送られたそうです。

一定の速度を保つことを基本に、先行車との距離を適正に維持してくれるのが「アダプティブクルーズコントロール」です。これに車両が走行レーンを保つよう、レーザースキャナーによる障害物・先行車検知を組み合わせて自動的に操舵する「アクティブレーンアシスト」、先行車の減速や停止を検知し、先行車が発進すれば追従を促す「トラフィックジャムアシスト」を統合したのがアダプティブドライブアシストとなります。このシステムは車速0〜約250km/h、つまり事実上全速度域で作動します。

ドライバーを危険から守ってくれるシステムは下記に示す通り、数多く搭載されています。

「フロントクロストラフィックアシスト」(オプション)
車両前端のカメラを使い、交差点に差し掛かった際の見えないエリアを監視して、左右から接近する車両が衝突する危険性を警告します。

「フロントクロストラフィックアシストターンアシスト」
右折時にドライバーの死角になる部分をレーダーが監視し、危険があれば自動的にブレーキを作動させてくれます。

「アウディサイドアシスト」
車線変更や右左折の際、死角にいる車両の危険を警告し、ドアミラー脇のライトを通じてドライバーに警告します。

「ターンアシストエグジットワーニングシステム」
停車してドアを開けるとき、後方車両に干渉する危険性がある場合にLED表示により注意を喚起します。警告にもかかわらずドアを開こうとした場合、ドアを開きにくくする制御も加わります。

「カーブストーンアシスト」
駐車時に車両周囲の情報を、モニターで確認できるシステムです。車両周囲の画像を合成した3Dビューや、タイヤ真横の状況を映すなどドライバーの死角を可視化します。

「リヤクロストラフィックアシスト」
低速でバックギアを使って路上に出る際に、光や音、ブレーキの振動によって左右から接近する車両の存在を警告してくれます。

「アウディプレセンス」
2種のうち「アウディプレセンスシティ」は、走行中に前方の障害物と衝突する可能性があると判断した場合、警告に続いて自動ブレーキを介入させるシステムです。車両は250km/h以下、歩行者や自転車は約10-85km/hの車速において感知するそうです。
「アウディプレセンスベーシック」は、事故に至りそうなシーンでフロント・シートベルトを巻き上げて拘束力を強めたり、ハザードランプを点滅させたり、パノラマサンルーフやウインドウを閉じるなど、車両の電動装備を利用して乗員を守るシステムです。リヤのレーダーセンサーの情報から、追突されそうだと判断された場合にも働きます。

【最新・最高級車にふさわしい高性能】

前置きが長くなりましたが、いよいよ実際にこれらのシステムを試した結果について説明しましょう。首都高速の上でアダプティブクルーズアシストを作動させてみました。

アダプティブクルーズコントロールの距離は5段階で調整可能で、一番短い設定では結構車間を詰めてくれます。合流車線で横からクルマが入って来にくいくらいです。装置のオン/オフ、車間距離や速度の設定スイッチはウィンカーレバーの下、ステアリングホイールの裏側の隠れた位置に配置してあります。ライトを点けても表示が光らないので、夜は存在がわかりにくいのが不思議です。これは意図的にそうしているんでしょうか。

クルーズコントロールをオンにした状態で、さらにウィンカー先端のスイッチを入れると作動するのがアクティブレーンアシストです。先行車がいる状態でオンにすると、かなり積極的にステアリングを操作して走ってくれて、首都高速の中では曲率がきつめのカーブでもぐいっと曲がってくれます。このときハンドル操作がカクッ、カクッとデジタル的なのが特徴的だと思いました。ドライバーが手を放すと制御は20秒位で切れてしまいます。

また、白線はうまく認識しますが、黄色線では認識性が低下する傾向があるように思えました。さらに、アイサイトをテストしたときと同様、コーナリング中に別の車線のクルマを追従対象として捉えてしまい、急に減速するシーンが一度だけありました。

ドアミラーに映らない死角に入ったクルマの存在を教えるアウディサイドアシストは、インジケーターがドアミラーの脇の比較的高い位置にあって、かなり明確に危険を教えてくれます。後ろからクルマが迫ってくるとパチパチッと光って警告してくれます。

300kmにおよぶテストの最中には、アウディプレセンスの効果を実感させられる機会もありました。渋滞末尾でギリギリまでブレーキしなかった状況で、かなりガツンと強くブレーキをかけてくれたのです。ブレーキ作動前のドライバーへの警告は、ギリギリまで我慢しているようでした。また、T字路からゆっくり交通量の多い道路に出ようとしたとき、ドライバーが十分注意しているにもかかわらずフロントクロストラフィックアシストが作動して急ブレーキをかけたことが一度ありました。

これらのシステムは、普段から過敏に反応するわけではなく、常識的な安全運転をしている限り、煩わしい動きをすることはないように思われます。多少は不必要なときに反応してしまうこともあるのでしょうが、こうした安全装備から得られる恩恵が大きいことを思えば、苦情を言うにはあたらないでしょう。総じて、アウディA8の運転支援機能は、惜しみなくレーザーやレーダー、超音波のセンサーやカメラを多数投入しているだけのことはあり、最新の最高級車に相応しい水準にあるように思われます。

(花嶋 言成)

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