新型マツダ3は基礎の基礎から開発されている? ボディの安定性へのこだわりとは?【マツダ雪上試乗会・その1】

【不安定なシートに乗って、クルマ自体がもっている安定性を確認】

マツダは2019年に発売が予定されているマツダ3を中心とした雪上試乗会を同社の冬季テストコースである剣淵試験場で行われました。今回の試乗会は、マツダ3を評価するものではなくて、雪上という滑りやすい環境を使って、各種技術の確認が大きな目的となりました。

私がまず行ったのは「スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャ」の進化の確認です。案内された部屋にはなぜだか「虫谷医院 バランス科」の張り紙が……。じつはこれ、マツダのちょっとしたジョークで、車両開発本部走安性能開発部の虫谷泰典さんが、お医者さんっぽく、解説をしてくれるからなのです。

まず行ったのが腰をグリグリ回すための健康器具(おそらくはながらウォークと呼ばれる製品)へ乗っての乗車姿勢のチェックです。

支点が1カ所しかない不安定な健康器具に乗って体験したのは、骨盤が立った状態(普通の椅子やシートならば)深く腰掛けて背筋を伸ばしたような状態にすることの大切さでした。骨盤を立てた状態で健康器具に乗ると身体は安定していますが、お尻をずらしたような姿勢になると身体は安定せずに健康器具から落ちそうになります。

つまりこの現象は、骨盤を立てて乗車することがとても大切で、そのようなシートを開発することの重要性を示しているというわけです。

続いて実車に乗っての体験です。用意されたクルマは現行のアクセラと新型のマツダ3です。いずれも助手席が取り外され、助手席には先ほどの健康器具が取り付けられています。つまり、シートの性能には頼らない状態で現行・新型を比較する、いやシートの性能を極限まで落とすことで、ボディとシャシーの性能を比較しようというわけです。

現行・新型を比較してみると、明らかに新型のほうが安定して乗っていられます。試乗時、両手は太ももの上に置くような感じで、健康器具に上半身をあずけます。

この状態でクルマが動くと、当然のように身体は前後左右に振られるのですが、その振り幅が新型はかなり少ないのです。ちょっと速度が上がると現行モデルは外に振り出されそうになるのですが、新型はそのまま乗っていられます。少し長い時間乗っていると、現行は太ももが張ってきます。動く身体を支えるために足の筋力を使っている証拠です。

この安定性を実現するために行われた第一の手法は、「ボディの改良」です。力の伝達遅れをなくすことをめざし、現行は上下左右の環状構造の連続構造でしたが、新型は前後左右だけでなく前後の骨格をつなぐことで「多方向に環状構造」を実現しています。

第二の手法として行われたのは「シャシーの改良」で、ばね下からの入力を滑らかにすることを目標に開発されています。従来は「バネ上に伝える力の大きさ(ピーク値)を低減する」ことを目標に開発されていましたが、新型では「バネ上に伝える力を時間軸で遅れなく滑らかにコントロール」することを目標にしています。

このシャシー性能を実現するためにサスペンションの作動軸をダンパー方向にしっかりと定め、ストローク方向のブレや遅れをなくす。初期の路面入力を抑制するタイヤの上下バネ成分の低減、上下入力を早期に増加させるアーム各の拡大などが行われています。

ボディとシャシーの改良は明らかにクルマの基本性能を向上させています。新型マツダ3はこうした基礎の基礎から開発されたクルマであることがよくわかる事例です。

(文・諸星陽一/写真・小林 和久)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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