【自動車用語辞典:エンジン「ボア・ストローク」】ピストンの上下する行程=ストロークとシリンダー内径=ボアがエンジン特性を左右する

■ロングストロークは低燃費型、ショートストロークは高出力型

●ロングストロークとショートストロークの得失

同じ排気量のエンジンでも、ボア径とストローク長さが変われば、エンジンの特性は大きく変わります。目標とする出力性能や燃費性能によって、ロングストロークかショートストロークかの設定が決まります。この項では、ロングストロークエンジンとショートストロークエンジンの得失について、解説していきます。

●ボア/ストローク比とは?

エンジンの排気量は、シリンダーの内径(ボア)とピストンが上下運動する上死点から下死点までの移動する距離(ストローク)で決まります。具体的には、以下の式で示されます。

排気量=ボア×2×3.14(円周率)×ストローク×気筒数÷4

ボアよりもストロークが長いと「ロングストローク」エンジン、ボアよりもストロークが短いと「ショートストローク」エンジン、またボアとストロークがほぼ同じ場合は「スクエア」エンジンと呼ばれます。

●ロングストロークエンジンの特性

ロングストロークエンジンでは、ボアが小さいので燃焼室は丸みを帯びたコンパクトな形状になり、同じエンジン回転数でもピストンの上下移動速度は大きくなります。このデメンジョンがエンジンの特性に大きな影響を与えます。

燃焼室がコンパクトになると、燃焼室の表面積が小さくなり、SV比(燃焼室の表面積と容積の比率)が小さくなります。これにより、燃焼による発熱が壁面から放出される割合が少なくなるため、熱損失が小さくなります。また、ピストン速度が大きくなるとシリンダー内の空気流動が活発になり、燃焼速度が速くなります。

つまり、ロングストロークエンジンは、熱損失の低減と燃焼速度の急速化によって、燃費が良くなります。

一方、デメリットもあります。燃焼室がコンパクトであるということは、吸・排気弁が大きく設定できないため、吸入空気量が減少します。またピストン最高速度が上がるとピストン慣性力が大きくなるため、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなどの補強が必要となり、フリクションが大きくなります。

ロングストロークエンジンは燃費は良いですが高回転高出力化には向いていません。ただし、低中速域では吸気弁の大きさによる吸入空気量の制約は少なく、コンパクトな燃焼室はノッキングが発生しにくいことから、ロングストロークの方が出力が出やすくなります。

●ショートストロークの特性

ショートストロークは、ロングストロークと全く逆の特性を示します。ボアが大きいので燃焼室は扁平な形状になり、同じエンジン回転数でもピストン速度は小さくなります。

燃焼室が扁平ということはSV比が大きくなって熱損失が大きくなるため、燃費には不利です。一方、吸・排気弁を大きく設定でき、ピストン速度も小さいため、高回転化に対応できます。

ショートストロークエンジンは、燃費は良くないですが、高回転高出力化に向いているエンジンです。

●いいとこ取りになる?スクエアエンジン

ボアとストロークがほぼ同じエンジンは、エンジンの縦断面でみてボアとストロークが1:1になるのでスクエアエンジンと呼ばれています。

ロングストロークとショートストロークの中間的な特性を持ち、燃費が今ほど重視されてなかった30年ほど前には主流でしたが、現在は一般的な量産車は圧倒的に燃費の良いロングストロークエンジンが多いです。


一言で表すと、ロングストロークエンジンは低燃費型、ショートストロークは高出力型です。燃費を重視する一般的な量産車にはロングストロークエンジン、出力性能を重視するスポーツ車やレース車にはショートストロークエンジンが採用されています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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