●スーパーカーにあこがれを持った「少年のココロ」のまま乗り込む
「サーキットの狼」に触発されスーパーカー少年となった私は、そのまま歳を重ねてこの仕事をしています。そうしたなかで「スーパーカー」と呼ばれるクルマはやはり特別な存在となります。
私がスーパーカー少年だったころ、マクラーレンはまだ純粋なレーシングチームで、市販車の印象はまるでありませんでした。マクラーレンが市販車を作り、発売するようになったのは、私がこの仕事をするようになってからの話です。
そんな人生を送ってきた私がこの720に向かっていき、乗り込むためにドアを開けるとドアは見事に上側に開きます。もうこれだけで感動なのです。かつてトヨタが「セラ」というクルマを作っていました。セラも同じようにドアが開きました。セラはクルマの走行性能としては高性能ではありませんでしたが、それでも興奮したものです。720Sはホンモノです。興奮せずにはいられません。
エンジンを始動すると、リヤから乾いたエキゾーストノートが響いていきます。いけないなあ……と思いつつも空ぶかしをしてしまいます。その衝動が抑えられないのです。
ギヤを入れ、アクセルを踏み込むと、期待通りのスムーズさで駐車場から出ていきます。途中、ちょっと減速が必要な場面があり、普段の感覚でブレーキを踏みましたが、初期制動が出ません。減速感がないのです。そう、720Sはカーボンローターを使っているため、極低速でのブレーキフィールはよくありません。そこから強く踏み込めば、強い減速感を持ってクルマの速度は落ちます。
有料道まで720Sを走らせ、アクセルを強く踏み込んでみます。フリクションを減らしたエンジンはかくあるべきという乾いたサウンドを響かせながらあっという間に速度が上がります。ミッションの変速ショックはほとんどなく、シームレスなものです。そしてブレーキング。ある程度速度が出てからのブレーキングは強力で、グッと減速感が出ます。プロダクションレース用マシンでは、ブレーキブースターをレス仕様とするので、同じような感覚のブレーキとなりますが、大きく異なるのはコントロール性です。720Sはロードモデルとして求められるコントロール性をしっかりと備えています。
コーナリングは安定感のあるものです。言い尽くされた感のある言葉ですが、大地に吸い付くようなイメージです。プロアクティブシャシコントロールと呼ばれる制御デバイスが正確にクルマをコントロールしてくれます。しかも介入感はほとんどなく、ドライバーファーストなのです。さらにプロアクティブシャシコントロールは、ドライバーの趣向に合わせたセッティングも可能で、ドライビングをさらに深いものとできます。
(文・写真/諸星陽一)