世界の約5%のシートを製造。日本を代表するシートメーカー・タチエスの工場で職人技を見る

自動運転、そして空飛ぶ飛行機……とクルマの進化は止まらない状況です。かつてクルマのパーツでなくならないものは「タイヤ」と言われていましたが、空中に浮くようなクルマ(もはやクルマではないといえますが)が登場したときに残るのはシートではないでしょうか?

「いやいや立ち乗りだって考えられますから」という人もいるかも知れませんが、自動運転のクルマに立って乗りたい人は少ないですよね。

さて、今回ちょっと縁があって自動車のシート製造メーカー「タチエス」の取材を行う機会に恵まれました。「タチエス」は1954年に前身となる「立川スプリング」として創業しました。1967年には国産初となる天皇陛下の御料車、プリンスロイヤルのシートも手がけています。

社名をタチエスとしたのは1986年で、創業地である「立川」の「タチ」と「スプリング」、創業家の「斉藤家」、協調を意味する「SYM」などの「S」を組み合わせたものと説明されました。

タチエスの2018年3月期の売上は連結で2954億円。社員数も同じく連結で1万2356名にも上ります。年間の生産台数は438万台分で、これはグローバルでシェア4.6%となります。最新モデルではホンダNボックス、日野プロフィア、浙江吉利汽車(中国)帝豪EV450、三菱エクリプスクロスなどのシートを製造しています。

基本的にシート作りは自動化と手作業が混合された世界でした。

たとえば、同じ形状のフレームならば、完全機械化で次々に作ることができますが、国内仕様、輸出仕様、手動、電動、マッサージ機能、ヒーター機能などなどさまざまなモデルが存在する場合は、なかなか自動化が難しく、手作業に頼ることも多いとのことでした。

シートはフレームにクッションとなるウレタンフォームを装着、表皮を被せて仕上げますが、これらの作業も手作業で行われていることが多かったです。

ビックリしたのは革シートの表皮を被せ、最後に仕上げるのはアイロン仕事であったことです。家庭で使うものと同じアイロンを使ってシートの革を伸ばし、ならしてシワを伸ばして仕上げるという作業です。この作業を見ていると、じつに職人的な作業で、クルマってやっぱりあらゆるところに職人が関わっている製品なんだな……と感じることができました。

(文/写真・諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
続きを見る
閉じる