一泊三日、自腹でシンガポールGP弾丸ツアー! まずは予選で興奮!!

「F1を観るなら絶対シンガポールがいいよ!」

編集部時代には忙しくてなかなか行けなかったモータースポーツ観戦。最近ではスーパーGTやスーパーフォーミュラなどに直接足を運べるようになって、その世界にすっかりはまってしまった私。ついに「レースの最高峰であるF1も観てみたい」と考えるようになった頃、F1好きの友人たちは口を揃えてそう言いました。

「F1を観たことがないどころか知識もほとんどない私が、いきなり海外でレース観戦!? ありえない……」

しかし、友人いわく、シンガポールGPは市街地コースのうえにナイトレースだから夜景も綺麗、そして何よりマシンが目の前を走るのは格別だ、と。

はなからムリ!と思っていた気持ちが揺らぎます。早めに押さえれば航空券も安く済むし、一泊三日でも予選と決勝は充分楽しめそう。シンガポールへ行くのも初めてだから、観光もできると考えればいいかも。そうこうするうち、考えるのを放棄して、航空券とシンガポールGPチケットを押さえてしまっていたのでした……。

2018年のシンガポールGPは9月14日(金)〜16日(日)に開催され、予選は15日、決勝は16日に行われました。金曜日は練習走行(フリープラクティス)がありますが、私たちは土曜の予選から参加する一泊三日の旅程で行くことに。シンガポールまでは飛行機で約7時間。成田空港から金曜の夕方の便で出発し、シンガポールのチャンギ空港には午前0時頃に到着。違う便で来る友人を待つため、ラウンジで食事したり仮眠したりと朝まで空港でまったり。

私のようにホテルでの一泊以外はラウンジを活用してゆっくり過ごしたい、けれどビジネスクラスでは行けないし、航空会社のカードも持っていない……という方には、クレジットカードに付帯されるプライオリティカードがおすすめ。チャンギ空港はどのターミナルでもプラオリティカードを使えるラウンジがあるので、シンガポールGPのために年会費が安いクレジットカードを作るのもひとつの手です(私は友人の受け売りでそうして大正解でした)。

土曜の早朝に友人と合流し、まずはホテルへチェックインすることに。初めて降り立ったシンガポールは、空港のまわりから市街地まで一帯がきちんと整備されていて、近未来感あふれる景色が印象的でした。気温は30度を超えるのでじわじわと汗をかくのですが、東京のような息苦しいまでの暑さはなく、ときおり吹いてくる風は心地いい。

空港からタクシーで約10分。三本の大きなビルのうえに船が乗っている、あの有名な「マリーナベイサンズ」に到着しました。そう、なんと今回は友人が予約したこの素敵なホテルに宿泊させていただけることに!

友人のツインルームに追加でアディショナルベッドを頼んでもらったのですが、日本のビジネスホテルのシングルベッド並にしっかりしているし、なんとアメニティも付いてきます。ホテルからは有名な植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」が見えて、大きなショッピングモールにも直結しているので、このあたりだけで観光は完結してしまいそう。いやいや、観光もいいけど、まずはF1を体感しに行かねば!と、早速メイン会場へ向かうことにしました。

シンガポールGPのチケットには様々なものがあり、チケットごとに観戦できるエリアが違います。私は初めてのシンガポールGPなので、三日間通し券になっていて様々な場所で観戦できる「プレミア自由観覧席(Premier Walkabout)」(通常4万7000円ですが早期購入なら割引あり)を購入することにしました。このチケットだとグランドスタンド以外なら大抵の場所で観戦できるので、どれを選べばいいか分からないと思ったらこのチケットを買えば間違いないです。

マリーナベイサンズから一番近い会場入口までは徒歩で約10〜15分。ほぼショッピングモール内を抜けられるので、暑さで体力を消耗せずに済むところが良いです。

シンガポールGPはコース全長が5063mある市街地コースなので、色々な場所を見ようと思うとたくさん歩き回ることになります。道を迂回したり電車に乗って移動するようなエリアもあるので、歩きやすい靴で行くのはもちろん、体力を温存しながら予選や決勝に備えることも大切です。

私たちは土曜の日中に行われたフリープラクティスで良い場所をリサーチし、予選はある程度ホテルから近くてサーキットビジョンも見られる「ZONE 2」のシンガポールフライヤー(観覧車)前で観戦することに。

レース車両が市街地コースを走っているというだけで、とにかく興奮します。F1のほかにもポルシェカレラカップやフェラーリチャレンジなどのレースもあり、目の前を駆け抜けていくマシンとエンジン音を聴くだけで「うわあー!」と子どものようにはしゃいでしまいます。

シンガポールGPはナイトレースなので、予選は夜の21時から。それまで体力を温存せねばと思うのですが、街中を包む興奮のせいでワクワクしっぱなしになってしまうのです。結局予選が始まる頃には疲れはじめて「まぁ、決勝は明日だから…」とトーンダウンする始末。

ところが、予選開始のアナウンスが流れて、各F1マシンのエンジンに火が入ると、得体の知れない熱気が会場を包み込み、疲れはあっという間に消し飛びます。

マシンの雄叫びが遠くから迫ってくるのを聞いて、ふつふつと肌が粟立つのを感じます。昔からのF1ファンはV12時代のエンジン音は最高だった、と口を揃えていいます。それは事実なのでしょう。でも、いま目の前を走り抜けるこのマシンは、こんなにも私を熱狂させています。それも紛れもない事実でした。

F1の予選はQ1、Q2、Q3に分かれており、Q1では下位5名がふるい落とされ15名が勝ち進み、次のQ2でも同様に5名が脱落します。そして、勝ち残った上位10名がQ3でそのグリッドを争うというわけです。

シンガポールGPは市街地のためコース幅はかなり狭く、オーバーテイクするのは至難の技。つまり予選の順位が決勝の順位へと直結するのです。そのせいもあるのでしょう、熱狂する人々の背後には、一歩間違えばすべてが崩れるような、氷のように冷たい緊張感も漂っています。とくにQ3ではそれが顕著でした。

F1速報10/4号

チャンピオン争いをしているメルセデス・ベンツのルイス・ハミルトン、フェラーリのセバスチャン・ベッテルの戦いが気になり、そのタイムを追います。数周してタイヤが温まり、アタックが始まると、Q1やQ2とはまた違った鬼気迫るドライビングが目の前で繰り広げられました。マシンから盛大に火花が飛び散り、ドライバーは壁から数センチの距離までマシンを寄せて駆け抜けます。

Q2の最速タイムは1分37秒前半でしたが、Q3ではベッテルが37秒を切る36秒台後半のタイムをコンスタントに刻み、その度に観客席が湧きます。ついにハミルトンに追いつくか、と思った時、ハミルトンは1分36秒015という驚愕のタイムを叩き出したのです。この瞬間、誰もがハミルトンのポールポジションを確信しました。

36秒後半で争っている展開のなかで、ひとりだけそれを軽々飛び越えてしまったのですから。ファンからもそうでない観客からも、ドッとうねるような歓声が上がります。結果、このタイムはコースレコードを更新し、ハミルトンは堂々のポールポジションを獲得しました。

世界最高峰のレースってこういうものなのね……。すこしでも身動きしたらこちらまで気迫に飲み込まれてしまいそうなQ3を目の当たりにして、しばらく心の震えが止まりませんでした。ハミルトンがピットに戻ると、メルセデスのチーム代表のトト・ヴォルフはハミルトンの予選を「スターダスト」と称賛したそうです。彼は「まるで夢のような素晴らしい予選だった」と評価したのだと思いますが、私にとっては夜のシンガポールを走るマシンすべてがきらきら輝く「スターダスト」に思えました。

マリーナベイサンズへ戻り、屋上のインフィニティプールから夜景を眺めようと水に浸かると、思いのほかひんやりとしていました。もう予選は終わっていましたが、いまだにサーキットはライトでこうこうと照らされています。エンジン音がまだ聞こえてくるような気がしました。

さぁ、明日はいよいよ決勝です。天気もよさそうですね。(つづく)

(伊藤 梓)