私はいつもロードスターのことばかり書いているので、「ほかに好きなクルマはないの?」と聞かれることがよくあります。いえいえ、もちろん他にもたくさんあるんですよ!クルマは見た目だけでなく、運転するとそれぞれ全然性格が違うので、どんなクルマでも乗ったら発見があって面白いし、嫌いなクルマというのはほとんど見つかりません。
ただ、本気で「自分で買いたい!」と思うクルマは、実はひと握り。これまで自動車業界で仕事をしてきて何百台というクルマに乗ってきましたが、本当に自分で買いたいと思ったのは数台でした。
「このクルマが欲しい!」と思うとき、人それぞれ決め手になるポイントがあると思います。デザインが好きだったり、自分の使いたい用途にぴったりだったり、価格が手頃だったり……。以前、私はロードスターを運転した瞬間「ビビッときた」と書きましたが、その「ビビッ」の正体はなんなのだろう?と改めて考えてみました。
これまで自動車業界で働いてきて、本当に欲しい思ったクルマは数台。そのなかに、もちろんそのなかにロードスターがいるのですが、シトロエンC3というクルマにもビビッときたことがあります。このC3のおかげで、自分がどういうクルマを好きになるのかようやく気づけた気がします。
C3はロードスターとはまったく違う5人乗りのコンパクトSUV。それでも乗り込んでアクセルを踏み込んだ瞬間にドキッとする感覚はロードスターに似ていました。ハンドルを握っている手にまるでクルマから血液が送り込まれているような、クルマと自分が密着していく感覚。ハンドルを切ってもペダルを踏んでも違和感がなく、自分を包み込むすべてが心地いい。このクルマとの“フィット感”は、私にとってはとても重要なファクターのようです。
そして、もうひとつはそのドキドキが持続すること。このクルマとならどこへでも行ける気がする、どこへでも行きたい、そんな気持ちをずっと持ち続けられるクルマ。C3の可愛らしくて遊び心のあるデザインは、いつも触れていても毎日乗るたびにワクワクできるはずです。私の勝手な感想なのですが、シトロエンのクルマは、クルマの運転操作はもちろん、たとえばドアを開けたときの重さや閉まり具合、シートやハンドルの触感、メーターのフォント、ウィンカーの音……そんな小さなことまですべてがひとつに繋がっているような感覚があるのです。これもC3に「ビビッ」ときた要因なのだと思います。
「クルマは恋人」とよく言われますが、こうやって書いてみると、本当にクルマは運命の人や生涯のパートナーと出会うのと似ているのかもしれませんね。
(伊藤 梓)