「常連が店をつぶす」といった言葉を見聞きしたことはないでしょうか? 飲食店や趣味のショップなどで常連にとって居心地の良い店にしたために新規のお客さんが入ってきづらくなり、潤っているように見えたのに徐々に衰退していって、最後はつぶれてしまうといった内容が典型的なストーリーです。
そのため常連の比率が一定以上にならないようにすべし、新規のお客さんを呼び込むような店づくりが大事ともいわれます。とはいえ、常連というのは熱心なお客さんですから、わざわざ常連が来づらくなるような店づくりをする店主もいないことでしょう。そうした中でバランスが崩れていくと「常連が店をつぶす」といった状況に陥ってしまうわけです。
前置きが長くなりましたが、まさに「常連が店をつぶす」一歩手前といった状況にあるのがトヨタ・カローラではないでしょうか。かつては日本一売れているクルマだったカローラも、2017年の登録車年間セールスランキングでは12位、スバル・インプレッサに迫られているような状態なのです。1980年代に、「カローラがレオーネ(インプレッサのルーツともいえるモデル)に年間販売で肉薄されている」なんて言ったら、だれも信じないような現象が起きているのです。
とはいえ、グローバルでいえばカローラは世界一売れているクルマ。まったく慌てる必要はないように思えます。しかし、日本で起きていることが世界的にも起きてくる、と予想しているのでしょう。つまりカローラのオーナー層が高齢化するという、ある種の常連の固定化により新規顧客が減ってしまい、モデルとしてシュリンクしてしまうという事態です。
メカニズム、スタイリングとも一新したカローラは、そうした状況への対応に思えます。国内市場目線でいうと、いまさらという感じもあるかもしれませんが、グローバル的には、減り始める前に手を打っておくというところでしょうか。ドラスティックな変革は、見方によっては常連を拒絶するようになってしまい、一時的にお客さんが減る可能性もありますが、長く続けていくためには必要なリニューアルです。
そしてカローラの大変身は、一モデルだけにとどまらないはずです。主力モデルの刷新はトヨタという一大ブランドの変身にもつながることでしょう。自動車マニアからすると「トヨタというのは、つまらないクルマの象徴」というイメージを持っているかもしれませんが、カローラが若返りしたいま、そうした先入観を持たない世代も生まれくることでしょう。
新生カローラは、ブランドイメージを書き換えるモデルになるかもしれません。
(写真:冨士井明史 文:山本晋也)