【日欧ブランド・コラボ列伝 第5回】『三菱 ギャランAMG(1989年)』AMGと三菱が手を組みエンジンチューン

国産スポーツモデルが数多く誕生した1980年代、尖ったメーカーはヨーロッパ名門ブランドとコラボしてスペシャル車両を生み出すに至っていました。そんな日欧コラボ・チューンド車を紹介する本企画、第5回は『三菱ギャランAMG(1989年)』の登場です。

全長×全幅×全高……4570×1695×1430mm
車両重量……1220kg
エンジン・出力&トルク……4気筒DOHC 16バルブ 1997cc・170ps/6750rpm&19.5kg・m/5000rpm
トランスミッション……5MT

メルセデスの著名チューナーであるAMGが、エンジンにまでがっつり手を入れて生み出した日本車が1989年に登場します。これが『三菱ギャランAMG』です。

その開発は本格的でした。まずは三菱からドイツに4G63型ユニットを空輸します。次にAMGが、自身の考える理想のチューニングを施した『指標エンジン(三菱ではこれを「テストエンジン」と呼んでいました)』を作り上げます。

これを元に三菱とAMGのエンジニアが市販モデルへとフィードバックさせるべく設計を詰めていきました……ってこれ、現在のAMG(正式名:メルセデスAMG)とメルセデスの関係みたいに濃密じゃないですかー! これが大成功していたら今ごろは会社名が『三菱AMG』となって、パジェロAMG(6.3L V8搭載)とかが登場していたんだろうか……(完全に妄想)。

さて気を取り直してギャランAMGの紹介です。ベースとなった1987年登場の6代目ギャランは個性的なマッシブフォルムと、後のランエボにつながる2リッターDOHCターボ&フルタイム4WDパッケージのVR-4の設定などで爆発的なヒットとなったモデルでした。

この6代目のマイナーチェンジ時・1989年に追加設定されたのが『ギャランAMG』です。AMGは(今ではメルセデスの一部分になっていますが)1999年までは独立した著名なチューナー兼レーシングコンストラクターで、とりわけメルセデス車のチューンドコンプリートを得意としており世界中で人気がありました。

三菱自動車がAMGと組むのはこれが初めてではありません。1986年登場の2代目デボネアに独自の内外装を追加した『デボネアVロイヤルAMG』に続く2回目のコラボなのでした。

そのカスタム内容は、外装では前後バンパースポイラーやサイドスカート、そしてリアウイング等を追加。インテリアではAMGデザインのグレーツートンシートや本革ステアリングが採用されていることが目立ちました。

なお日本のスポーツモデルとしては珍しいことに、本木目のドアパネル&シフトノブも組み合わされていたあたり、さすがはドイツAMG流儀といえます。

さて今回のギャランAMGでの一番のトピックはこうした内外装ではなくエンジンにありました。ベースとなったのは後のランエボ搭載でも有名な4気筒4G63型エンジン。しかしAMGでは最高出力で優位なターボエンジンとはせずNAを選択しました。

このエンジンは先述の通り一度ドイツのAMG本社に送られ、彼らが理想とするチューニングを施した指標エンジンを作るところから開発がスタートします。そして彼らが組み上げたエンジンをもとに、三菱のエンジン・エンジニアがその指標特性を達成すべく作ったのがギャランAMG専用の4G63ユニットだったのです。

指標エンジンでは連続して高回転を使うことを可能にするため動弁系のフリクションロスを低減することが求められました。三菱は中空カムシャフトバルブや量産車・世界初のチタン合金リテーナーなどの採用によって動弁系の慣性重量を大きく改善します。

ちなみに、こうした高級素材を投入するということはAMGだけが持っているノウハウでもなく、三菱自動車単体でも盛り込むことはできたものです。が、当時の三菱側エンジン設計担当によればAMGとの協業では技術面でのことよりも「出力向上への考え方や、いわゆる”味付け”で得るところが多いにあった」とのことでした。

具体的には、従来の三菱では出力を上げようとすると吸気効率向上を重点的に求める傾向にあったのですが、AMGでは「排気系をいかに効率よくまとめるか」を重要視していたことが興味深かったとのこと。また、「気持ちいい排気音を追求していけば、それが速さにもつながる」として、音を作り込んでいくと性能も上がっていくということを学んだと述懐しています(AMGがターボではなくNAを選択した背景には音へのこだわりもありそうです)。

こうしてAMGの手が入って高回転・高出力化した4G63型エンジンはノーマルの140psに対して大幅アップの170psの出力を得ることになりました。

しかし冒頭でも述べたようにギャランには最高峰モデル用に2リッターターボエンジンがあり、こちらは240psを発生させていました。また、このVR-4はフルタイム四駆を採用しているのに対し、ギャランAMGはFFであったことも災いして販売業績的には振るいませんでした。

しかし現在の目で見れば、AMGが指標エンジンを作って方向性を指し示し、三菱が贅沢にコストをかけて作った4G63を搭載し、車重の軽いFFを選択したギャランAMGに大きな価値があることは明らかです。

(文:ウナ丼/写真:三菱自動車)

この記事の著者

ウナ丼 近影

ウナ丼

動画取材&編集、ライターをしています。車歴はシティ・ターボIIに始まり初代パンダ、ビートやキャトルに2CVなど。全部すげえ中古で大変な目に遭いました。現在はBMWの1シリーズ(F20)。
知人からは無難と言われますが当人は「乗って楽しいのに壊れないなんて!」と感嘆の日々。『STRUT/エンスーCARガイド』という名前の書籍出版社代表もしています。最近の刊行はサンバーやジムニー、S660関連など。
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