今、冬用タイヤが新しい時代を迎えようとしています。それはオールシーズンタイヤというジャンルの台頭です。今やすっかり冬用タイヤの代名詞となったスタッドレスタイヤですが、日本でのその歴史は35年程度のものです。スタッドレスとは、スタッド(スパイク)がレス(ない)タイヤという意味で、スパイクタイヤでないのにスパイクタイヤのような性能を持つことを象徴しています。
スタッドレスタイヤ登場以前は、サマータイヤとスノータイヤという区分けが一般的でした。スノータイヤはその名のとおり雪道を走るためのタイヤで、氷結路には不向きで氷結路を走るためにはスノータイヤにスパイクを打ち込んでいたのです。ところがスパイクタイヤで乾燥路面を走ると、道路の舗装を削ってしまい、その粉じんが公害となる事態が発生しました。スパイクタイヤ全盛時代は、夏タイヤとスパイク付きスノータイヤを使い分ける必要がありましたが、リアルワールドでは圧雪部分、氷結部分、ウエット、ドライとさまざまな路面が混在しています。そうしたことを解決する手段として登場したのがスタッドレスタイヤなのです。
つまり、スタッドレスタイヤはさまざな路面を走れることが求められているのですが、氷結路や圧雪路での性能を高めれば高めるほど乾燥路面での性能が劣るという背反性があります。そこで現在は春、夏、秋はサマータイヤを使い、雪が降り始める前にスタッドレスタイヤに履き替えるということが一般的になってきています。さまざまな路面で使えることが目的なのに、結局は履き替えている……というジレンマが存在しています。
そうした状況に一石を投じたタイヤがあります。グッドイヤーの「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」です。「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」はオールシーズンタイヤというジャンルのタイヤです。その名のとおり、オールシーズン、つまり年間を通して使えることを目的に開発されたタイヤです。じつは以前からこのジャンルは存在しています。アメリカでは装着されるタイヤは基本オールシーズンタイヤとなっています。 しかしながら、多くのオールシーズンタイヤは夏タイヤよりの設定で、雪道は走れても氷結路は苦手というものがほとんどでした。
ところが「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」は、今までのオールシーズンタイヤとは異なる性能が与えられたのです。それは、夏タイヤとスタッドレスタイヤの融合、“ハイブリッド”のネーミングはまさにそこを表現したものです。「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」は、トレッド面のセンター付近がスタッドレスタイヤ、両サイドが夏タイヤというトレッドパターンが与えられています。
多くの人がスタッドレスタイヤで不安に感じるのがブレーキと発進、いわゆる縦方向のグリップです。トレッド面で縦方向のグリップを担当するのはセンター付近です。試乗した限り「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」の縦方向グリップは一般的な使用で不満を感じることはありませんでした。圧雪路はもちろん、シャーベット路や氷結路でもしっかり発進しますし、キッチリ停止もします。スタッドレスタイヤが登場した35年前は、ABSもトラクションコントロールも進化していませんでしたが、現代はそうしたデバイスもしっかり進化し、ドライビングをサポートしてくれます。試乗中にデバイスが介入することはほとんどありませんでしたが、ちょっと無理をして介入した際もその制御によってクルマは瞬時に安定します。現代的なクルマにおいて「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」は非常にマッチングがいいのです。
もちろん試乗時にはコーナリングもチェックしていますが、不安感はほとんどありません。もちろん限界性能は純粋なスタッドレスタイヤよりも低いレベルになりますが、極端に低いことはなく、金属チェーンやゴムネット以上であることは確かです。ある一定の条件ではチェーンなどのほうが優れている場面もあるかも知れませんが、刻一刻と変化するリアルワールドの路面では守備範囲の広い「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」のほうがはるかに実用的です。コーナリングなどの横方向のグリップに関しては、VSCなどの横滑り安定装置が介在しますが、トラクションコントロールやABS同様に無理をしない限りは介在してきませんでした。また、限界状態への突入がわかりやすくコントロール性が確保されているのもいい面です。
乾燥路面ではスタッドレスタイヤほどの腰砕け感がありません。タイヤのケース剛性(タイヤそのもののしっかり感)が高く、トレッドのサイド部分がドライ路面向きのトレッドデザインとなっているため、コーナリング時の安定性はもちろん、高速走行時の直進安定性も高くなっています。走行時のノイズは一般的なサマータイヤよりは高めですが、スタッドレスタイヤとしてみれば低めといったところです。
「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」は、オールシーズンタイヤの名に恥じることなく、1年を通して使うことができるタイヤとなっています。もちろん雪が降らない沖縄などでは不要なものですし、ウインターシーズンの路面はロードヒーティング部分以外は圧雪やアイスバーンというような降雪地帯では従来どおりスタッドレスタイヤへの履き替えがいいでしょう。しかし、とくに東京などの基本が乾燥路面で、たまに雪が降るというような状況ではベストチョイスとなることうけあい。おすすめできるタイヤです。今後は降雪地帯はスタッドレスタイヤ、東京のような時折雪が降るような地域ではオールシーズンタイヤ……という時代になってきそうな予感がします。
(文:諸星陽一/写真:ダン・アオキ、小林和久)