【フランクフルトモーターショー2017】ドイツ勢の電動化・環境戦略① ICEからHEV、EV、FCVまで、全方位的アプローチするダイムラー

「IAA Cars 2017(通称フランクフルト・モーターショー)」初日に行われた記者会見で、ダイムラーAGのトップ、ディーター・ツェッツェ博士が全メルセデス・モデルを2022年までに電動化する計画を発表。コンパクトカーからフルサイズSUVまで、全てのセグメントにおいて完全電気自動車(EV)10車種を含む50以上のモデルが何らかの電動パワートレインを持つことになるそうです。

さらに欧州と北米で販売するスマート・ブランドのクルマを、2020年までには全てEVに切り替える計画もぶち上げました。

今回のモーターショーでは、プラグイン・ハイブリッド(PHV)のフラッグシップとなる「S560e」を世界初披露(ワールドプレミア)。サクソニー工場で作られる自家製バッテリーで50kmまで電気走行が可能なこのモデルは、量産車として初めて同社の「EQ Power」エンブレムが付けられ、100km走行に必要なガソリン量は2.1L(約47.62L/Km)という低燃費を実現しているとの事です。

同じく今回がワールドプレミアとなったEV「コンセプトEQA」は、使う人のニーズに合わせてパワーと航続距離の選択が可能という新しい提案がされていました。2つのモーターが合計で最高出力270hp、最大トルク500Nmを発生する一方、航続距離を優先して最大容量のバッテリーを搭載すれば、フル充電で400kmの走行が可能との説明がありました。

ツェッツェ博士はまた、「この数か月間に『ドイツの自動車産業』が失った信頼」の回復について言及。革新的・先進的なソリューションを市場に投入していく決意を語っていました。その中で強調されていたのは、内燃機関(ICE)、特にディーゼル・エンジンの重要性。現状での現実的なソリューションとしては、PHVを含むHEVやEVの投入と同時に、ICEの効率をさらに高め、消費者個々のニーズに応える選択肢を提供していく事が社会全体としてのCO2削減に最も重要であると締めくくっていました。

例年、規模の大きさに圧倒されるメルセデスのブースは、今年もらせん状に造られた3階構造。1階中央のステージで「S560e」や「コンセプトEQA」などのワールドプレミアを見た後は、長いエスカレーターで3階に上がり、下りながらテーマごとの展示車両を見る形式になっています。

順路の最初に並べられていたのは、Sクラス、Eクラスから始まるディーゼル・エンジン搭載モデル。今回のフランクフルト・モーターショーでは、ダイムラーがディーゼル・エンジンに関する話題をどう扱うのか非常に興味がありましたが、車両展示を見ても現実的なソリューションの一つとして今後も更なる効率化を進めて行くツェッツェ博士のコメントに偽りはなさそうな印象でした。

同社は既に、48Vのハイブリッドシステムを直列6気筒エンジンに組み合わせて量産体制を整えていると同時に、年内には4気筒エンジンにも同様のシステムの採用を計画しています。このシステムは、高電圧を使用するフルハイブリッドよりも低コストで搭載が容易なメリットがあります。また、ディーゼル・エンジンと組みわせた新しいPHVの市場投入計画や、SUV「GLC」をベースとした燃料電池車「GLC F-CELL」の紹介も行われていました。

研究開発費に66億ユーロ(約8600億円)を投資すると誇らしげに語っていたダイムラーの取り組むCO2削減戦略は、この様に全方位的なアプローチといえそうです。EVは完全ゼロエミッションである一方、現在の技術では航続距離の問題が無視できない状況です。IECと電動ドライブの「良いとこどり」が可能なPHVも、バッテリーを使い切った後は電池の重さで燃費が悪化するデメリットがあります。

現状では、それぞれに得手不得手があるソリューション。クルマの使い方に応じた選択肢を用意しながら継続的にそれぞれの効率向上を図る戦略は、ダイムラーの底知れぬパワーを見せられた感じがしました。ディーゼル・エンジンの排ガス問題がまだ完全には解決されていない状況ですが、今後「ドイツの自動車産業」への世界的信頼回復をいかに果たしていくか、今後に期待を持たせるフランクフルト・モーターショーでした。

(Toru Ishikawa)