本人に振り返ってもらおう。
「スタートして1時間くらいだったかな。コースで言うと、スタートラインから6〜7kmくらいのあたりだったと思うんだけど、それまではまったくのドライだった。200km/hくらいで走っていたんだけど、前に何かスモッグのようなものが見えたんだ。「いったいなんだ!?」と思って、ひょっとして雨なのかもしれないと思った」
とヴァン・ダム。
「ブレーキングポイントでブレーキを普通に踏んだんだけど、その瞬間、ドライから一気にものすごい雨になったんだ。信じられなかったよ! そこからはロケットに乗ってしまったみたいに止まらなかった。もうクルマはどうしようもない状況で、流れていくままになってしまったんだ」
「当然、ワイパーに触る余裕もないから、すごい雨で何も見えなくなってしまった。ブレーキングしているので車速は落ちていたので、前に1台クルマがいるのが見えたんだ。そして、そのクルマがガードレールにぶつかって、跳ね返されるのが見えた。そして僕もグラベルに入っていってしまったんだけど、その瞬間、辰巳さんやチームメイトの顔が一瞬頭をよぎったよ(笑)
制御できないスバルWRX STIはコースアウトしていく。このままでは、前のマシンにぶつかってしまう……! しかし、ここからがヴァン・ダムの本領発揮だ。
「『どうする!?』と思ったんだけど、グラベルに出たときに、前のクルマに本当にギリギリのスペースが見えた。そこをなんとか通過して、ひょっとするとわずかにぶつかったのかもしれないけど、なんとか抜け出すことができたんだ。ラッキーだったよね」
「その後の2〜3kmは、ずっとクルマが問題ないことを確認しながら、『クレイジー! クレイジー!』とラジオで叫びながら走っていたんだ。そうしたらピットからは『テレビで見えてるよ』って(笑)」
なんとかクラッシュを回避したヴァン・ダムだが、その先も雹のなかでなんとかピットまで帰り着く。
「クラッシュを避けたあと、3〜4kmくらいはすさまじい嵐が襲ってきたんだ。雨と、ゴルフボールくらいの大きさの雹が襲ってきた。運転席側は閉まっているんだけど、助手席側の窓は開いていて(注:レーシングカーのサイドウインドウは、窓のなかにスライド式の小窓が設けられており、そこを開けていることがある)、そこから雹が飛び込んできたり大変だったよ!」
「クルマはAWDだししっかり走ることはできたけど、とにかく気をつけながら走っていた。その先、いきなり今度はドライになったんだよ! お日様は出ているしね(笑)。そうしてメインストレートに戻ることができたんだ」
なんとかコース上にマシンを留めたヴァン・ダムだが、
「あとで車載を見てみると、カルロは最後までシフトダウンしているんです。そして何事もなかったように曲がっている。すごいことですよ」
と辰巳英治総監督もこの“神回避”がクラス優勝に繋がったと絶賛していた。
(クリッカー編集部)