世界初、熱硬化性と熱可塑性の長所を両立した新炭素繊維材料を発売

新日鉄住金マテリアルズは、現場で重合・硬化できる新規フェノキシ樹脂を用いた炭素繊維熱可塑性プリプレグ「NS-TEPreg(エヌエス テプレグ:登録商標)」の開発に、世界で初めて成功したと発表しました。

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近年、自動車業界でも需要が高まっている炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維を布状に加工したプリプレグを積層し、加熱・加圧・冷却して成形します。

炭素繊維強化プラスチックは、熱硬化性タイプ(CFRP)と熱可塑性タイプ(CFRTP)の2つに分類されます。

CFRP用の熱硬化性プリプレグは、粘着性・柔軟性がある(半硬化)ので作業性が良いという特徴があります。その成形品であるCFRPは優れた強度・剛性を有す反面、加熱しても鉄やプラスチックのように変形しないため、二次加工性や量産性に課題があります。また、耐衝撃性も高くありません。

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一方、これまでのCFRTP用の熱可塑性プリプレグは、粘着性・柔軟性がなく(完全硬化)作業性がよくありません。その成形品であるCFRTPは耐衝撃性が高く、加熱すると柔らかくなるため変形しやすく、二次加工性は優れますが、強度・剛性の面ではCFRPよりも劣ります。

そこで、近年、良好な作業性を有し、成形しCFRTPとなっても、CFRP同等の優れた強度・剛性を実現する熱可塑性プリプレグの開発が求められてきました。

今回同社が開発に成功した「NS-TEPreg」(熱可塑性プリプレグ)は、従来の熱硬化性プリプレグの良好な作業性を有し、成形してCFRTPとなってもCFRPと同等の優れた強度・剛性を実現し、熱可塑性の耐衝撃性、二次加工性も有するという両方の長所を両立した、これまでの常識を覆す画期的な新炭素繊維材料です。

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「NS-TEPreg」は、新規フェノキシ樹脂を用いたプリプレグであることがポイントです。

今回開発した新規フェノキシ樹脂は、通常のエポキシ樹脂と同様に未硬化の状態では液状でありながら、硬化が完了した後はプラスチック同様の熱可塑性を示すという特殊な樹脂です。

本新規フェノキシ樹脂に加え、さらに、この樹脂の硬化反応を半硬化状態にコントロールする製造技術も開発することで、世界で初めて高品質の”半硬化状態の熱可塑性プリプレグ”「NS-TEPreg」の量産化に成功しました。

「NS-TEPreg」は、熱硬化性プリプレグ同様に半硬化状態なので、成形にCFRPの成形設備がそのまま適用できるので、材料を使う現場に新たな設備投資が不要というメリットもあります。

従来の熱可塑性プリプレグを用いて作られたCFRTPは、炭素繊維と樹脂との接着力が低く、炭素繊維の高強度・高弾性といった性能を発揮できませんでした。一方「NS-TEPreg」を用いて作られたCFRTPは、炭素繊維と樹脂との接着力が高いため、CFRPと同等の高強度・高弾性を持つという優れた性能を備えています。

さらに、「NS-TEPreg」に用いられる新規フェノキシ樹脂は、靭性(粘り強さ)が高いことから、一般的なCFRPに比べて成形品の層間強度が高く剥離しにくい特徴があります。

これらの接着力、強度、樹脂の靭性により、優れた耐衝撃特性も示します。また、樹脂の特殊な構造から、熱可塑性の樹脂でありながら、耐水性に優れ、湿気にも強く、吸湿による寸法変化や性能低下が小さいという特徴もあります。

「NS-TEPreg」は軽量・高強度で作業性がよく、自動車業界ではハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)などの環境対応車への応用と、軽量化への貢献が期待されています。

(山内 博・画像:新日鉄住金マテリアルズ)