名車、貴車、稀車、奇車、珍車……世界の自動車博物館を訪れるのは楽しいものです。アメリカのフォード、日本のトヨタ・ミュージアムなどの大規模から、所有者の趣味のコレクションまで、新車当時よりはるかに高品質に復元(?)された車群が、趣向を凝らした背景の前に並んでいます。自動車もの書き屋の冥利は、ときたま親切な学術員のご好意で一般公開していない保管、整備部門を見られることです。その楽しみ、ちょっとお分けしましょう。
トヨタ・ミュージアムの“倉庫”。シトロエンDS、エドセル (F2P Vol 8)、ジャガー SSらの、生まれ育ち環境のまったく違ったクルマが並ぶ様は息をのみます。
それらの中でそびえ立っていたのが中華人民共和国の要人が乗る第一汽車製のリムージン紅旗CA72型。学術員さんが教えてくれたのは、ヘッドランプベゼルの通気孔内側最下端。なんとハート形!中国デザイナーのユーモアのセンスでしょうか。たしか、鄭小平主席(当時)のパレード車の写真にもベゼルハートを見ました。しかし、2013上海オートショーで発表した新型では、顔デザインは踏襲しましたが、ハートはなくなっていたようです。
BMWミュンヘン本社4本シリンダー型建物に続く鉢形のミュージアムは有名です。さほど遠くないなんの変哲もない典型的工業団地4階建建物がとんでもない宝庫です。BMWだけなく、かつて吸収したグラース、ゴゴモービルから現在傘下のロールス-ロイス、BMC/ローバー期のミニ、そしてBMW2輪車を蒐集しています。圧巻は、F1を含むレーシングカー群で、巨大な金庫のようなドアの彼方の部屋は、温度、湿度を完全空調しています。
イギリスのモータースポーツと航空産業旧跡、ブルックランズ・ミュージアムは、往時の勇者たちが駆ったレーシングカーから超音速旅客機コンコルドまでが広い敷地建物と屋外に展示されています。奇妙な檻に飼育(?)されていたのが日産エスカルゴでした。
韓国のヒュンダイ/キア・グループは、2014年販売統計で世界第5位にあります。2007年にコンパクトなミュージアムをオープンしましたが、なにしろナムヤン研究開発センター敷地内にあるので、同社員あるいは特別に招待されたゲストしか入れません。入ってすぐ右の部屋左右には、両ブランドの創設以来のクルマが並んでいます。左列が小型車ポニー(三菱設計パワートレイン)からはじまる三菱系車、右列キアの先頭はマツダ T600(T360軽3輪ベース)、そして最後尾がFFロータス・エランのキア版(日本にも輸入)です。
もっと驚いたのは、ゲストには公開しない、展示場の裏の大倉庫で、ここでは左側にヒュンンダイの前身会社が組み立て販売した英フォード・コルチナ群、右には1962年型マツダT2000を先頭にしたマツダ系車が置かれています。いずれも、サビの出た発掘状態です。コレクションと一部展示の理由は、社員に両ブランドの外部依存であった創業時のルーツを認識、一層の努力をうながすためといいます。