谷川選手「何分走るの?」
野上監督「2時間半。その先は様子を見ながら」
この会話、最初はよくある冗談かと思いました。
なぜなら、レーシングスピードではいくらコンパクトクラスのST-5クラスでも45リッタータンクでの走行距離は200kmに届かないレベル。つまりリッター4km程度の燃費です。そしてピットでの給油は1回につき20リッターまでと規定されているため、5時間レースであれば、通常は4回から5回のピットインが必要となります。
スーパー耐久ST-5クラスの中でも特に燃費がいいといわれたTeam NOPROの先代デミオでもせいぜいリッター5km弱。そう考えると2時間30分以上も走り続けられるわけがありません。
しかし、冗談に聞こえたその会話はまさに真実。いや実際にはそれ以上の、2時間50分もノーピットで走り続けることになるのです。
推定燃費はなんとリッター7km。45リッターのレース用安全タンクを搭載しているので、想定航続距離にして315km!谷川選手は63周をノーピットで走り、その走行距離は302km。レーシングカーとしては驚異的な燃費です。
つまりこの最初のピットインは、燃料よりも先にタイヤの限界が近づいてしまったと見ることもできるのです。
その後のピットインは2回で、規定ピット回数のみで走りきるという離れ業。この好燃費によるロングラン作戦は今後の戦略にも活かされることでしょう。
デミオディーゼルのレーシングマシンはいまだ開発過程にあるので、スピードではまだライバルのホンダFIT3には遠くかないませんが、周回数で見るともうひとつのライバルであるトヨタヴィッツ勢には肉薄しています。タイム差を作戦で埋めるチャンスがあるのも耐久レースの面白さのひとつです。
クラス順位の6位はクラスでは最下位ですが、初めてのクリーンディーゼルレーシングカーを無事に完走させたチーム力は賞賛に値します。
ちなみに盾を持っているのはレースクイーンの汐美茉琴ちゃん。
電池は使わなくても次世代エコカーとして認定されるマツダ デミオXD SKYACTIVE-D。
今回のもてぎ5時間レースで、燃費のよさはレースフィールドでも実証されたことになります。Team NOPROの 17号車DXLアラゴスタNOPROデミオSKY-Dは、このレースで得たデータから熟成を重ね、徐々にスピードアップを重ねることでしょう。
(文・写真:松永和浩)