稀代の“カーガイ”といえば、ボブ・ラッツ。
米ビックスリー全社を渡り歩きつつ、そのメーカーそれぞれにエポックメイキングなモデルを仕掛けた伝説の経営者です。
そんなボブさんとはいえ、選手としてニュル24時間やラリーに挑戦したことまではありません。というか、そんなチャレンジ、会社が許すはずはありません。
自動車メーカーの代表取締役をつとめながら、プロのドライバーとしてレーシングマシンを操れる…そんな特殊な人物が世界にどれだけいるのでしょうか?
そう、みなさんご存知モリゾウさんです。
トヨタがWRC復帰を決めた報道解禁と同時に、モリゾウさんみずからヤリスのワークスカーをドライブするムービーが公開されています。
その走りはまさに“ヤリス”ギと言ってもいいようなキレっぷり。
ヘルメットをかぶる瞬間に目つきが変わるシーン、ベタ踏みで定状円旋回を繰り返すその雄姿には、とてもあと2年で還暦を迎えるお方とは到底思えない、ジャックナイフのような“殺気”すら伝わってきます。
これまでも“クルマの味づくり”を極めるための「GAZOO」ブランドの立ち上げ、そしてニュル参戦。ともすれば机上だけで終わってしまうクルマ作りに、“答えは路にある”とばかりに命がけのチャレンジを続けてきました。
モリゾウさんの追いかける“数字”は、会社の業績だけではありません。ラップタイムも含まれていたのです。
そんなモリゾウさんが音頭をとって進めるトヨタのクルマ作りが、つぎのフェーズへと突入しています。
そのプロジェクトの名は「TOYOTA NEXT ONE」。
モリゾウさんからのメッセージ、
『いいクルマとは何か。
その問いを 自分たちの人生の中心に置こう。
そしてそれをひたすら 考え続けよう。
そうすれば体のなかに何かが生まれる。
その何かがこれからのトヨタに必要だ。』
にあるように、“何か”を、従業員すべてにつかみ取ってほしいとの想いが伝わってきます。
社員によるオーストラリア走破チャレンジも、その一環にあります。
トヨタ本体だけで毎年600名にもなる新卒採用枠にエントリーする学生のなかには、免許の持たない人はおろか「安定した大企業に入りたい」というだけの動機の人も、少なからずいると聞きます。時代を考えると、それも無理もありません。
ただし経営者として20年後、30年後のトヨタを考えた際に、社内に一本芯のとおった“カーガイ”をたくさん育てておきたい…AE86レビンに胸ときめかせる、かつての少年たちのように。
まさに内側からの変革、その結晶となる作品としての新型車が出るのはまだまだ先でしょうが、胎動をはじめた「NEXT ONE」に、期待はふくらみます。
■TOYOTA NEXT ONE
http://toyota.jp/information/campaign/nextone/
(畑澤清志)