審査員として参加した、MHW(モーターハックウィークエンド)は、実に刺激的なイベントだった。
若さと、漲る力と、何にも縛られない自由な発想に、目から鱗が何枚も剥がれた。同時に自分が、いつの間にか歳を重ね、何かに縛られて動きづらくなっていることを気付かされて、彼・彼女に負けないように歩いていかなければならない、と思わされた。
彼・彼女とは、今回のMHWにエントリーした若者たちのことだ。
MHWは、IoT(Internet Of Things)市場を見据えて、クルマをITデバイスとして捉え新たな価値を想像せよ、というテーマのもと、若者たちがチームを組んで様々な提案をし、それをコンペティションする、というイベント。これまでにない初の試みは、実に面白い成果をもたらしたといえる。
クルマに精通した我々だったら「無理」とか「可能性が低い」とか思う発想が、そこにあった。ここにまず、大きな衝撃を受けたし、とても大切なことだと思えた。なぜなら自由な発想の最大の敵は、無理と思うことに始まる否定。それを取っ払って考えられる若者たちの頭の柔らかさに感心しきりだった。
クルマの中で、男女のコミュニケーションを活性化させたい…という気持ちが、彼女のご機嫌を伺うデバイスを発想させたり、車内のコミュニケーションを取りまとめる“おせっかいオバさん”という機能を発想させた。こういったこと、我々では到底考えつかない。
もちろん、現実のデバイスや商品やサービスにしようと思うと、欠けている部分がいくつもある。けれど、それを補ってあまりある、荒削りだけど勢いのある提案が続々と登場してきた。若々しく、瑞々しいアイデアがそこにあった。
そしてそんな荒削りだけど勢いのある提案を、「現実の形に沿うようにするのが我々大人の役目」だと、同じ審査員を務めた方がおっしゃった。まさにその通り。夢や憧れをモノにするのは、我々の役目なのだ。
彼らがアイデアを練っている2日間のうちの後半の1日、僕は彼らにクルマの専門家としてのアドバイスをいくつかした。驚くべきは僕からのアドバイスを即座に自分たちの感覚に落とし込んで提案に反映させていたことだ。提案作成中はまだまだ弱いなと感じていた説得力が、プレゼンの段では強いものに成長し、多くの審査員が目を見張るものとなった。
彼・彼女たちの提案には新たな価値観が溢れている。我々はまず、これを理解して認めてアシストすべきだと感じた。
もちろん、我々は我々で守るべき価値観がある。けれど、同時に新たな価値観を我々の価値観を融合していくべきと思えた。そしてそこに、新たな時代へ向けた可能性が広がっていると思えたのだ。
MHWは若い世代のクルマに対する新たな価値観を顕在化して、我々世代に伝えることに成功した。そして今後はここから、現実の新たな商品やサービスが生まれていくことに期待したい。そう思うとこの試みは、実に意義深いものだったといえる。
彼・彼女たちの発想があれば、自動車の未来は明るい、と思えたのだった。
(河口まなぶ)