トヨタ系の自動車部品会社のトヨタ紡織は11月19日付けで、トヨタ自動車の燃料電池車MIRAI(ミライ)に搭載される燃料電池1の関連部品を生産した、と発表しました。
トヨタ紡織では、次世代自動車である燃料電池車の動力源となるパワートレーン基幹部品へ事業拡大を目指す、としています。
燃料電池は、水素と酸素の化学反応を利用して電気をつくる発電装置で、高分子電解質膜に触媒を塗ったMEA(Membrane Electrode Assembly:膜/電極複合体)と呼ばれる発電素子をセパレーターで挟んだセルで構成されています。
数百ものセルを重ねて一つにまとめたものを、燃料電池スタックと呼んでいますが、今回、トヨタ紡織が生産開始したのは、セパレーターと呼ばれるチタン製の板状部品で、トヨタ紡織独自の精密プレス加工技術を生かして、燃料電池内に水素の微細流路形状を形成することを実現したものです。トヨタ紡織では、このセパレーターが燃料電池の発電効率向上に寄与している、と説明しています。
この生産工法は、トヨタ紡織のコア技術である「高精度・高速プレス加工技術」を燃料電池に応用したもので、独自の精密型工機技術を駆使して、トヨタ紡織が金型製作から生産まで一貫して行っています。
今回、燃料電池に生かされたトヨタ紡織の「高精度・高速プレス加工技術」は、もともと精密な自動車用シート骨格構成部品の生産技術として確立された技術で、トヨタ紡織では、すでにハイブリッドシステム用モーターコア構成部品に応用しています。そして、さらに今回の燃料電池分野へと、その応用分野の領域を拡大しています。
また、トヨタ紡織では燃料電池スタックに水素や空気、冷却水を供給する配管部品で、アルミと樹脂で構成されている、燃料電池関連部品のスタックマニホールドも開発しています。このスタックマニホールドでは、大型アルミ部品と樹脂部品をインサート成形することで薄型化し、燃料電池スタックの小型化に寄与しています。
夢の燃料電池車というと、想像もできないような新技術が使われていると考えがちですが、実際の開発の現場では、いままで地道に培ってきた技術をブラッシュアップして、コツコツと行われていることが、今回のトヨタ紡織の発表から覗えます。
華やかな新車発表の裏には、今回のトヨタ紡織のような部品メーカーの縁の下の力持ち的な目立たないけれど、大きな力が生きていることにも注目してほしいと思います。
同じ燃料電池車でトヨタと競うホンダも2015年中の燃料電池車発売を予告しています。ホンダでは、燃料電池を小型化して5人乗りが可能な燃料電池車を開発している、と発表しており、燃料電池車をめぐるメーカー間の競争もますます激しくなる様相を見せています。われわれユーザーとしても今後の燃料電池車の発展に目が離せなくなっています。
(山内 博)