WRX STI A-Lineは、300ps/350Nmのスペックの組み合わせで、4ドア/5ドアを設定していたわけですが、308ps/422NmのMT仕様の影に隠れてしまっていた感があります。
そこで、MTのみのWRX STI、CVTのみのWRX S4と分けることで、両車をより分かりやすく差別化し、それぞれ個性を主張させるというのがスバルの戦略なのでしょう。「S4にもMTが欲しい」、という声もあるでしょうが、分かりやすい戦略ともいえます。
さて、前置きが長くなりましたが、私はWRX STIとWRX S4には富士スピードウェイで乗っただけで、前者は本コース、後者はサーキットの周回路ということで、とくにWRX S4に関して分かったことはかなり限定的。
WRX S4を街中から高速道路まで走らせてみると、まず街中で驚くのはかなり硬質な乗り味。広報車の都合で急きょ、ビルシュタイン製フロント倒立式ダンパーの「2.0GTS」からノーマルの「2.0GT」に変わってしまったのは残念でしたが、とくにタウンスピードでは路面が良くてもかなりハードで、上下・左右に盛大に揺すられます。「2.0GTS」の街乗りがどうかは気になるところ。
圧倒的なボディの剛性感は先代よりも高まっていますから、揺れがいつまでも続くわけではないものの、ファミリーユースで考えている人は後席に家族を乗せての試乗が必要かもしれません。
なお、ファミリーユースで考える場合は、細かな話ですが、大きなサイドシルスポイラーは乗降の度にかなり気をつけないと足を当ててしまいそうで、キズひとつ付けたくない人にとっては毎回子どもや奥さんの乗り降りに目を光らせている必要があるも!?
WRX S4のCMでは、ワンちゃんを後席に乗せた日常とサーキットという非日常が描かれていますが、乗り味は明らかに後者。
先代のSTIを上回る俊敏なハンドリングを味わうには、空いている首都高くらいの速度域が必要で、乗り味は硬めといってもそれ以外は意外と「普通」です。
「SI-DRIVE」を「Iモード」にしたままだとひたすら牙を隠している雰囲気で、とても300ps/400Nmを誇る心臓部を積んでいるとは思えません。インパネ中央にあるアクセル開度(%表示)を見ていると、公道で普通に走っていて50%以上になることはほとんどない状態です。
少し飛ばしていきます。「Iモード」でもフルスロットルにすると、圧倒的な加速フィールが得られ、オーバースピードでコーナーに突っ込んでも、WRX STI同様にステアリングを切り増していけば余裕綽々でクリアしていきます。
また、レヴォーグと比べるとリヤの隔壁がある分、剛性感は明らかにS4の方が一枚上手で、よりライントレース性に優れる感じを受けました。
パワーフィールは、「SI-DRIVE」を「I」のままだと「普通」に徹し、「S」でアクセルレスポンスが2割増しくらいになるイメージでしょうか。さらに、「S♯」にすると8速クロスレシオステップ変速により、CVTであることを忘れさせる素早い変速を見せてくれますが、それでもDCTやMTと比べればエンジンの存在をより感じさせてくれるような、ダイレクト感という意味では構造的な限界も感じさせます。ATとCVTしか知らなければ、十分だとは思いますが。
ステージを高速道路に移すと、追い越し車線で流れに乗る程度で、開発陣の目指したフラットライド感が高まってきます。欧州車に多いセッティングともいえますが、速度域の低い日本ではもう少し中・低速域の乗り心地とロール制御などのバランス向上を図って欲しいもの。スバルに限らずホンダやマツダなどにも全般的に感じる課題かもしれません。
しかし、先代までの「じゃじゃ馬」的な走りから、パワーの出し方や静粛性などでは大人の雰囲気を十分に身に付けているWRX S4。今後のアップデート次第では、価格の高い欧州製セダンにも太刀打ちできるトータル性能をモノにしそうです。
(塚田勝弘)