日本の自動車産業は様々な分野で海外進出を図っています。地理的にアジアの中心にあると言われるタイは、かなり早くから日本の自動車産業が目を向けていた土地です。
例えばトヨタは1962年にはタイにトヨタ・モーター・タイランドを設立しています。ちなみに、2013年6月のタイにおける乗用車ブランド別販売台数を調べると、日本ブランドが9割以上を占めているのがわかります。(出展:マークラインズ株式会社)
メーカーが進出するということは、周辺のパーツメーカーなども進出することになったり、自動車文化も日本車をベースに育っていくこととなります。
そうして様々な日本の自動車関連事業が海外進出をしているなかで、中古自動車パーツ買取、販売の最大手であるアップガレージはタイへの進出を計画しています。
アップガレージの石田誠社長によると、
「海外への進出は以前から考えており、中国やその他の国々を検討していた。そして、昨年(2012年)のバンコクオートサロン及びタイD1GPを視察して、タイへの出店を決めた」
とのことです。タイでのD1GP(ディーワングランプリ:クルマをスライドさせるドリフト競技)の人気は高く、走っているのはもちろんほとんどが日本車なわけです。
視察したバンコクオートサロンでは、日本車やアフターパーツはもちろん、日本の有名レーシングドライバー(写真:織戸学選手)や、日本のレースクイーンなども、タイでは既に人気、知名度ともにあるようです。
日本のアフターパーツメーカーが10年ほど前にやはりアジア進出を目論んだものの、大きな成功に至ってない点について石田社長は、
「当時はまだ早かったんじゃないでしょうか。今やっと少し裕福な若い層がクルマを所有し始めています。やっとその時期が来たと確信しています」
と分析します。
タイでは日本車をチューニングしたり、80年代くらいの日本の旧車に乗る富裕層もいます。ドリフトのベース車はもちろん日本車のFRが主流です。意外なのは初代セフィーロがいまだに多く走っていることです。しかも、エンジンはトヨタのJZ系に載せ換えるのが主流と言います。D1GPも夜の12時までやってもお客さんが帰ろうとしません。
タイの自動車は日本車が多く、日本車向けのパーツは充分に需要があるはずです。アップガレージは中古パーツを買い取り、それを販売することで成立しています。そのサイクルがタイでも回っていくと読んだわけです。
日本の中古流通ビジネスモデルでは、釣り用品を扱うタックルベリーがすでにバンコクに出店しています。今回石田社長はタックルベリーバンコク店を訪問しました。
店長の関口さんによると、バンコクで釣りはお金持ちの趣味として定着しており、訪問した際も裕福そうな若いカップルがBMWで訪れていました。オープンの時には、用意した商品がほとんどなくなるほどの盛況ぶりで、日本で新店舗をオープンしたときよりも多くの売り上げがあったとのことです。
かなり高価な日本製最新釣り具が売れるそうで、現在はタイでの買い取りはまだほとんどなく、日本からの商品が店頭に並んでいます。ルアーなどの消耗品類は新品を扱っています。
アップガレージでは、こうした前例も参考にしながら出店計画を進めています。
2013年の4月から2ヵ月に亘り、タイで発行されている「OPTION Thailand」(日本のOPTION誌のタイ版)に見開きで求人広告を出しました。募集するのはアップガレージバンコク店を経営する人材。社長募集です。
これには大変な反響があり、日本で言うところのいわゆる東大、早慶クラスの優秀な大学出身者が多く応募してきたそうです。
この中から2人に絞り込み、現在は日本に呼んでアップガレージビジネスの研修中です。
それから、タイでの困った問題もあります。タイも他のアジア諸国と同じようにコピー商品があまり誇れない文化として盛んです。
日本の優秀な自動車パーツもコピー商品が多く出回っています。
特に、ホイールではデザインはもちろん、安全基準の刻印やステッカーなどまでそのままコピーした商品が平然と売られています。
これに対して、アップガレージとしては本物の日本製品しか扱わない方向だと言います。
「コピー商品と日本製新品商品の中間くらいの価格帯の中古商品を扱うことで、少しでも本物に触れてもらってその良さをわかってもらいたい。いちど本物を味わったら、その後もいいものを使いたくなるでしょう。少しでも日本のパーツメーカーのお役に立てればと考えています」と石田社長は語ります。
アップガレージバンコク店は、早ければ1年くらいを目処に、店舗オープンを目指しています。最終的には現地だけで独立して経営していけるようにしたいと石田社長はいいます。
日本では、本やブランド品などと同じように全国展開で中古の自動車パーツを流通させることに成功したアップガレージ。同じビジネスモデルが海外でも通用するのか、興味深く見守っていきたいところです。
(小林和久)