スズキの新型ハイトワゴン=スペーシアに一言!

〈Mondaytalk星島浩/自伝的・爺ぃの独り言47〉 新車名であり、ニューモデルに違いないものの、生産車種が増えたのではない。従来型パレットの後釜だ。つれてOEM供給しているマツダ・フレアワゴンもフルモデルチェンジした。

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       スズキ・スペーシア 登録車にもかなわないほどの広さを実現。

 

 ホンダNボックスがバカ売れ。スズキにもワゴンR以外に「なにか新コンセプト」が望まれていた。スズキ系ディーラーに限らず、OEM供給先の日産やマツダ系販売店も思いは同じだったろう。

 

 しかしNボックスは出来っこない。スズキの手持ちプラットフォームを用いる限り、ホイールベース延長が無理なら、室内長を生かしてのラゲッジスペース拡大や使い勝手向上も望めないからだ。

 

 実際、Nボックスは後席さえ犠牲にすれば、自転車をハンドル持ったまま車内に載せられる。試乗印象を書いたっけ。自転車で学校に通う孫娘が雨に濡れて帰るシーンを想えば、私だって喜んで迎えに行く、と。

 

 それだけじゃなかった。わが隠居小屋周辺には、ご主人が軽乗用車で駅まで通う例がある。でも田舎とはいえ、駅近くは駐車場所に難儀する。有料だと月4000円前後が必要。ならばタダで駐めておける場所までクルマを使い、そこで自転車に乗り換える————毎日、全行程を自転車で通うのはしんどいし、夏は暑く、冬は寒い。駅まで奥方に送迎させる例も少なくないが、時間帯によっては家事に差し支える。なるほど、巧い使い方だ。

 

 スキー、サーフなど遊びにも利用範囲が広がったことは言うまでもない。

 

 悔しかったろう。スペーシアにNボックス並みの使い勝手は実現しなかった。助手席と左側後席の畳み方や積み重ね機構を開発すれば、できない相談ではなさそうだが、かなりの工夫とコストが求められる。まして、ワゴンR同様、助手席下にリチウムイオン電池を収める設計では成立しない。

 

 でも感心したのはスペーシアで実現した「おもてなし」アイテムの幾つか。

 

 試乗会で触れて直ぐ気づいた。ボタンタッチで開閉可能なリヤサイド・スライドドア。リヤサイド・ウインドーに設けた日除けスクリーン。スライドドア先端に備えたカップホールダー。これまで、なかったのが不思議なくらいの装備ではあるが、軽乗用車も、ここまできたか、と————半数以上が老若ご婦人である。とっくに判っていた大半ユーザー層に改めて着目した。

 

 後席足許がフラットで広い。ママかチャイルドシートの世話をしたり、乳母車の収容にも不満なし。ただ、せっかく前席との間隔が広いのだから、後席を前にスライドさせて、リクライニング可能にしたら、どうかしら。

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「おもてなし」の発想は やはり、そうだったか。

 日産ノートに先を越されたとはいえ、商品開発主査? にスズキ初の女性エンジニアが起用されていた。安川千明さん————試乗会場のホテルで昼食をご一緒する栄に浴し、お話できたのは幸運。試乗に訪れた多くの記者や仲間から選ばれたんだもの、嬉しいャ。むろん安川さんには賛辞を惜しまず。

 

 ただし注文も。「股ぐらに手を突っ込む格好で運転席をスライド調節しなければならないのはカッコわるい。即刻、改めるべし」と加えた。スペーシアだけの罪ではない。おおかたのスズキ車を改めなきゃならない————かなり以前から「ワル口」言ってたんだけどねェ。

 

 機械部分はワゴンRの延長上にある。今なお「RJCテクノロジー・イヤー」受賞のTVコマーシャルが流され続けている。

 

 これも最初に気づいたのは、ワゴンRのボンネットを開けたとき。アイドリングストップ付きを疑う、5~6000円で買える鉛バッテリーだった。

 

 アイドリングストップ付き同類他車は安くても1万5000円するバッテリーだもの。確かに小型とはいえリチウムイオン電池を積み(詳しくは重複を避けるとして)エネルギー回生や再始動性向上、室内電気確保など包括システム代に3万円を必要とするが、車検の都度、交換せざるを得ない鉛バッテリー代の差額と技術的商品魅力を考えたら、テクノロジーイヤー授賞は当然だろう。因みに小型リチウムイオン電池は生涯無交換で済む。

 

 試乗したのはターボ機種と標準ガソリン車。郊外での買い物や駅・学校までの送迎などに使うなら、標準エンジンで十分。でも高速道路を走る機会が多ければターボ付きが望ましい。最近は私が往復する常磐道でも追い越し車線を疾走する軽乗用車が増えている。その、おおかたがターボ付きだ————私も何度か筑波山あたりまで軽を試乗したが、やはりノンターボだと、しんどい。

 

 それと主にスズキ車が用いる副変速機付きCVT————モード燃費は最新ダイハツ車と甲乙つけがたい値だが、実用上は僅かとはいえ副変速機付きのほうが加速と燃費、高速巡航時の静粛性に優れている。

 加えて、新型ワゴンRも同様。ローからハイレンジに切り替わるときの段差感が、ほぼ解消されてきた。およそ60㎞/h付近で替わるのだが、よほど注意深くないと気づかなくなったもの。

 

 ハンドリングは合格点。個体差だろう、ノンターボ車のニュートラル付近で微かなフリクションを覚えたものの、小回り性良好。直進安定性も良し。なお4人乗車でも制動能力に不満は覚えず。コントロールしやすい部類だ。

 

「問題あり」は乗り心地。

 ノンターボ車にも合格点は差し上げられないが、ターボ車は「乗り心地なし」に近い。背が高め、旋回時のロールを案じて、だとしても、よりソフトで収まりの良い足回りであるべし。おまけにタイヤ空気圧が高すぎるんじゃないの?————モード燃費競争を無視できない事情は解るけど、ここまで乗り心地を犠牲にすべきじゃない。

 

 軽量化を進めたことは評価しよう。これも燃費向上には有効だ。小さなボンネットに防振・防音材を貼る必要はないかもしれぬ。しかし、ロードノイズやゴロゴロ音が快適性の足を引っ張ってはいけない。静粛性・快適性・運動性を確保した上での軽量化が求められる。魅力車だけに惜しいんだョ。★