キャデラックATSは欧州プレミアムと比べて何が違う?

2012年11月15日に日本発売が発表され、いよいよ3月から市販を開始するキャデラックの意欲作、ATS。

日本発売に先立って行われたメディア向け試乗会で、このATSをたっぷりと試乗してきました。

キャデラックATSを簡単に説明するとBMW3シリーズ、アウディA4、メルセデス・ベンツCクラスと正面切って渡り合うために投入された全くの新型。キャデラック初のプレミアムDセグメントということになります。

外観はひと目でキャデラックとわかるデザイン。

キャデラックの伝統的なモチーフが各所に散りばめられていますが、レトロとはかけ離れた先進的で先鋭的なデザインといえます。

 

フロントデザインはオバマ大統領の専用車から、ニュルブルクリンク最速のセダンであるCTS-Vなどに通じる「アート&サイエンス」のデザイン言語で構成され、遠くからでもひと目でキャデラックとわかります。

 

リアのデザインはもっと先鋭的。テールランプは赤一色のレンズの中に全てを収め、点灯していない状態では極めてシンプルに造形の中に溶け込みます。そのテールランプからCピラーにかけてのプレスラインは50~60年代のキャデラックに多用されていたテールフィンがモチーフ。そこからつながるトランクやバンパーのラインにもV字型モチーフを取り入れているので、リアからもキャデラックであるということがひと目でわかります。

プレミアムセダンにとって、最上級車種からつながってくる「ひと目でわかるアイコン」というのはとても重要。クルマを手に入れるということと同時に、その「ブランド」を手に入れるという満足感が顧客をひきつける事になるからです。

日本導入されるキャデラックATSの意欲的なポイントの最たるものはエンジン。アメリカ車のイメージを完全に覆すこのエンジンは2リッター4気筒の直噴ターボ。欧州のプレミアム御三家も軒並み2リッター4気筒のターボ(メルセデスは1.8ですが)を採用しているというトレンドの中、キャデラックはここに正面から殴り込みをかけているのです。

ライバルの多くは200~240馬力が主流ですが、キャデラックATSは276馬力、35.9kg・mとライバル達を大きく引き離します。その上、車重は1580kg。アウディA4やメルセデス・ベンツのCクラスは1600kg越え、BMW328iでキャデラックと同程度。パワーウェイトレシオを考えれば間違いなくトップ。

 

今回用意された試乗車は2グレードあるうちの標準モデル「ラグジュアリー」。ホイールは17インチでタイヤサイズは225/45-17 90Vのミシュラン プライマシーM×M4。M+S標記が付くオールシーズンタイヤです。

こんなタイヤでちゃんと走れるの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その考えははっきりいって覆されます。後ほどドライブ編にも書きますが、キャデラックATSのシャーシ性能はタイヤを選びません。FR車なのに、このタイヤが276馬力を破綻無く受け止めるシャーシを作り出しているということは驚愕です。

フロントブレーキはブレンボキャリパー。やっぱりブレンボの対向キャリパーは効きがいいのにコントロールが楽。安心感が違います。

特筆はブレーキパッド。このホイールの写真、実は100km走行後に掃除をせずに撮影しています。輸入車なのにブレーキダストが皆無。筆者のVWポロは100kmも走れば、ホイールのスポークに明らかに黒いツブツブが付着します。これはドイツ御三家でも同様。キャデラックATSはこういったところまでもこだわり抜いているんですね。

革と金属のハイクオリティな内装はたまらなくクール。黒を基調としていますが、様々な黒の質感と金属のメッキ感、アルミのマットな質感が織りなすコントラストがお洒落。さすがiPhoneを生み出した国のクルマ。

 

内装で特筆なのはセンターコンソールの大画面。CUE(キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)と名付けられたこのシステムはまさにスマホを操るかのごとくオーディオや車両情報を操作できるのです。CUEには10個のBluetoothデバイスがつながり、電話のハンズフリーやiPhone内の音楽などをATS専用設計のBOSEサウンドシステムで奏でることができます。そして、そのデバイスはスイッチパネルの裏側に収納でき、この収納スペースにはUSB端子も装備。ケーブル接続で充電も可能となっているのです。

CUEやBOSEサウンドシステムの他に、キャデラックATSにはもう一つ先進的な機能があります。これもBOSEとの共同開発で生み出した、ノイズキャンセルシステム。

キャデラックATSの車内は相当に静かなのですが、これは遮音材だけの効果ではなく、車内ノイズや車外の騒音といったものの波形を検知し、逆位相の音を流すことでそれを打ち消すシステムです。ヘッドフォンの規模の音場空間であれば容易に作り上げられるのでしょうが、クルマのルームスペースとなるとシートやその他の装備品などの影響もあってそう簡単に作り上げることが出来るものではありません。それを実現し、静粛性のレベルを相当高い次元まで持ってきたということで注目の装備となっているのです。

キャデラックATSではシートも重要なファアクターです。電動アジャストが便利だとか、座り心地がいいとかいうことは、このプレミアムクラスではわざわざ書くべきことにはなりません。特筆すべきはこのシートに仕込まれた秀逸なアラートシステムです。

車線を逸脱すると警告を発するシステムは国産車でも付いています。しかしその多くは警告灯や警告音によるもの。これって実は同乗者にかなりの不安を与えてしまいます。その警告をキャデラックATSはシートの振動で伝えるという画期的なシステムを作り上げています。右に逸脱すればシートの右座面、左に逸脱すれば左座面が振動。前方の車両との距離が近いと左右両方が振動します。

筆者は実は左ハンドルがかなり苦手なのですが、このシートのおかげで同行者に苦手なのを悟られること無く、そして数回の警告振動を受けることで車両感覚も割と早い段階で掴むことが出来るようになりました。

リアシートも若干のバケット構造を採用しているので激しく飛ばしても乗員が左右に揺すられることも少なく、安定した乗り心地を享受してくれます。多少つま先周りは狭いかもしれませんが、ニースペースは見た目以上に広く、大人4人が快適に移動できる空間となっています。その上トランクスルーまで装備されていて、不意の大荷物でも難なくカバーしてしまう度量も兼ね備えているのです。

ドイツのプレミアム御三家と真っ向勝負するために作り上げられたキャデラックATS。ハードウェアだけを列挙しても充分に勝ちにいける内容を持っていますが、やはり真骨頂はそのドライブフィール。次回はドライブ編として実際に乗った印象を筆者と、そしてレーシングドライバーの意見も交えて紹介いたします。

■キャデラックATS公式サイト
http://www.cadillac.co.jp/lineup/ats/

(文・写真:北森涼介)

この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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